コラム

「表参道タワマン都営住宅」騒動の背景にあった、東京の「のっぴきならない」不動産事情

2023年07月12日(水)11時30分
東京メトロ表参道駅

TAKAMEX/SHUTTERSTOCK

<都心の超一等地に立つタワマンに激安で住めるのは不公平? ただ今後の経済情勢を踏まえると、こうした公営住宅の整備は喫緊の課題だ>

東京都が都心の一等地に立つタワーマンション型の都営住宅を激安価格で募集したことが話題となっている。自治体や政府が提供する公営住宅は役割を終えたと考える人が多く、当該物件についても賛否両論となった。

今回の募集はわずか1部屋と、小池百合子都知事による政治的パフォーマンスという側面が否定できないものの、公営住宅そのものの重要性はむしろ高まっている。インフレの進行で中間層が新築マンションを購入することが困難となっており、賃貸住宅の家賃上昇も懸念されている。今後、住宅難民が続出するのは確実であり、公営住宅の在り方について再検討するタイミングに来ている。

話題となった物件は「都営北青山三丁目アパート」で、老朽化した「都営青山北町アパート」を建て替えたもの。東京メトロ表参道駅から徒歩5分という抜群の立地となっており、このエリアは「超」の付く一等地である。

結婚予定のカップル、世帯年収が350万円未満、年齢が40歳未満など、諸条件を満たした世帯のみが応募でき、家賃は2DK(42平方メートル)で6万2000円。近隣で同じ条件の民間賃貸住宅を借りれば30万円程度になることを考えると、まさに激安価格といえるだろう。

募集した物件は1部屋のみで、16件の応募があったとされるが、超一等地に年収制限のある居住者を募集することに意味があるのか、といった否定的な意見は少なくない。

今回の募集の是非はともかく、今後の経済情勢を考えた場合、政府や自治体が利便性の高い場所に公営住宅を積極的に整備しなければならないのもまた事実である。その理由は、インフレと慢性的な低賃金によって多くの中間層が持ち家を購入できなくなっているからである。

賃貸住宅に迫る供給危機

日本における住宅政策は、景気対策を優先する観点から、新築住宅の建設と購入を大前提としてきた。多くの世帯が持ち家を志向するので、賃貸住宅の供給は限定的だったといってよい。

ところがインフレの進行によって首都圏新築マンションの平均価格は既に6000万円を突破し、賃金も大幅に上昇する見通しが立たないことから、平均的な所得の世帯では持ち家を確保することが難しくなってきた。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、イスラエルへの兵器輸送一部停止か ハマスとの戦

ビジネス

FRB、年内は金利据え置きの可能性=ミネアポリス連

ワールド

ロシアとウクライナの化学兵器使用、立証されていない

ワールド

反ユダヤ主義の高まりを警告、バイデン氏 ホロコース
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 6

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 7

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 8

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 9

    ハマス、ガザ休戦案受け入れ イスラエルはラファ攻…

  • 10

    プーチン大統領就任式、EU加盟国の大半が欠席へ …

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story