コラム

文在寅大統領は何がしたいのか、なぜ韓国はGSOMIAで苦しむか

2019年11月29日(金)14時30分

文大統領は、やや偏狭な所はあるが、悪い人ではなく、人としては信頼できるタイプではないかと常々感じていた。だから韓国の人々は、彼を大統領に選んだのではないか。ちょっとだけ、イギリス労働党のコービン党首のような感じも受ける。

文大統領の強い願いが「大国に引き裂かれてしまった朝鮮半島の融和」であることはわかっていた。韓国人の、そして世界中の人間の誰が、その思いを非難できるだろうか。

<参考記事>なぜフランシスコ法王は北朝鮮に招待されるのか。韓国の文大統領、トランプ政権、米朝会議との関係は。

しかし、外交センスには欠けるきらいのある文大統領には、大きな誤算があったのだ。

中国政府の野蛮の影響

それは、これほどまでに、アメリカが経済問題と軍事問題を一体化して考えていることに、鈍かったことだ。

話が最初に戻るが、筆者も『ワシントン・ポスト』の記事を読むまで、アメリカがこのことをそこまで重要視しているとは、そこまで経済と軍事を一つに考えて危機感をもっているとは思わなかった。

やっと今、日韓の「GSOMIA」問題を、アメリカが「米韓の問題」と象徴的に捉えたことに納得がいった。

文大統領の誤算は、不肖筆者と同じだったのかもしれない。中国政府はいつも脅してくる。でもまさかアメリカがここまで......と。トランプ大統領とブレーンの間には考え方の違いがあることも、混乱を招いた。

普通、西側先進国では、経済問題と軍事問題は切り離して考える傾向がたいへん強い。根底に信頼があるし、民主主義の価値観を共有しているためだろう。ある意味、洗練されているのだ。

でも、中国は違う。言論の自由は極めて乏しく、ネットサイトも検閲されているし、フェイスブックもツイッターも繋がらない(裏道はあるらしい)。透明性ゼロで、選挙も一党独裁である。前はそれでも10年に一度は国家主席が変わっていたが、それすらなくなってしまった。独裁政権による、ほぼ全体主義国家になってしまっている。最近の香港の例を出すまでもない。

韓国人に対しては「今までの友情を信じよう」と言うだけですむが、中国に対しては、その前に「正確な情報を伝えあい、正直な気持ちを確かめあえる言論の自由を!」と主張しなくてはならない。

そのような中国の野蛮な覇権に、どんどん韓国の政治もアメリカの政治も、影響されてきているように見える。日本の政治は冷静を保っているが、地政学的に極めて難しい韓国にとって、GSOMIA問題はいかに心臓が削れるような事件だったことか。

韓国が、GSOMIAの問題と日本の輸入規制の問題を一緒にするのは、常に経済と軍事をないまぜにした中国の圧迫(というか脅迫)を受けているので、そうなってしまったのかもしれない(アメリカも最近はえげつない)。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、19日からベトナム訪問 武器や決済など

ワールド

アングル:仏財政危機への懸念高まる、市場は英トラス

ワールド

NATO、核兵器配備を協議 事務総長「透明性を抑止

ワールド

中韓外交・安保対話、18日に初会合 韓国外務省発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 3

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 4

    顔も服も「若かりし頃のマドンナ」そのもの...マドン…

  • 5

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 6

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 7

    なぜ日本語は漢字を捨てなかったのか?...『万葉集』…

  • 8

    中国経済がはまる「日本型デフレ」の泥沼...消費心理…

  • 9

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 10

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 7

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 10

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story