コラム

ドイツの新連立政権にあって日本にないのは国民生活へのリスペクト

2021年11月27日(土)20時10分
ドイツ新連立政権メンバー

メルケル政権に代わる新政権の面々(写真左から緑の党共同党首のベアボックとハベック、SPD党首で首相候補のショルツ、FDP党首のリントナー)Fabrizio Bensch-REUTERS

<イデオロギーや党綱領に違いはあっても、自由、民主主義、平等の理念が一致していれば連立して国民の暮らしを向上させていくことはできる>

今年9月、ドイツで行われた総選挙で、中道左派のSPDが僅差で第1党となり、オーラフ・ショルツを首班とする連立交渉に入った。この選挙で過半数を制した政党はおらず、ショルツ政権は環境政党である緑の党および自由主義政党のFDPとの3党連立政権となる。11月24日、3党の合意が成立し、12月初頭に政権は発足する見通しとなった。

「信号機」連立ができるまで

このドイツの総選挙結果では、連立政権の選択肢は3つに絞られていた。一つはSPDと緑の党とFDPの通称「信号機」連立。もう一つはSPDと中道右派CDU/CSUの大連立、そして、CDU/CSUと緑の党とFDPの通称「ジャマイカ」連立である。このうち比較第1党を排除した「ジャマイカ」連立は民主主義の論理からいって筋が悪く、世論調査でも支持を得られていないことから排除され、またメルケル時代を通じて続けられてきた大連立は、お互いにもう?やる気がないということで、事実上、取りうる選択肢は「信号機」連立だけとなった。

ちなみに、極右政党AfDとはどの党も連立を組むことを拒否しており、また左翼党はキャスティング・ヴォートを得られる議席数を獲得出来なかったため、政権選択からは排除されている。

長引いた連立交渉と新政権の不安要素

SPD、緑の党、FDPの3党は10月15日、連立協議の事前準備を終え、正式協議は11月24日までかかった。連立交渉に時間がかかるのは普通のことだが、今回は緑の党とFDPの主張の違いが大きいため、いっそう難しい協議となった。

緑の党は環境政党で、気候変動問題について大胆な政策を主張している。脱原発や脱石炭などの政策を実行に移すためには当然ながら多額の財政出動が必要だ。しかしFDPは経営者などを支持基盤とする企業寄り政党であり、積極財政には消極的だ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story