コラム

日本人がまだ知らない最強メディア「微博」の衝撃

2013年01月21日(月)09時00分

今週のコラムニスト:李小牧

〔1月16日号掲載〕

 李小牧に19番目の「孩子(子供)」が生まれた!

 もちろん冗談だ。恋多き歌舞伎町案内人だが、実際の子供は男の子3人だけ。このたび生まれた子供とは、日中で19冊目となる新著『中国を変えた最強メディア 微博(ウェイボー)の衝撃』(阪急コミュニケーションズ)のことだ。

 1年以上かけて在日中国人ジャーナリストの蔡成平(ツァイ・チェンピン)氏とまとめたこの本は、中国で生まれたSNSのマイクロブログ、微博がいかに中国を変え始めているか、その驚くべき実態をリポートしている。以前から日本でも微博をテーマにした本は出ていたが、実際に現地で運営会社の幹部に取材したのはこの本が初めてだ。

 ユーザー数3億人以上の微博を知らなければ、新指導者を迎えた中国がどこへ向かうのか知ることはできない。それくらい重要なメディアなのに、日本人は相変わらず「人民日報様」をありがたがっている。

 もちろん中国語が分からなければ微博を本当に理解するのは難しい。ただ、日本人は漢字が分かる。書き込みの漢字を追えば、何をテーマにしているかぐらいは分かる。検索も日本語で入力できる。

 今や中国は微博を中心に回っていると言っても過言でない。最近も中国政治の大きな動きが微博に表れた。主役は共産党総書記に就任したばかりの習近平(シー・チンピン)だ。

 先月上旬、習総書記は広東省深センを訪問した。ちょうど今から21年前、89年の天安門事件後に停滞していた中国経済に、鄧小平が「活」を入れた場所である。既に多くのメディアが分析しているように、今回の訪問は「これからも中国は経済成長を止めない」という国内外への意思表示だ。ただし、メディアは別の重要なメッセージを見落としていた。

 共産党の汚職と腐敗を憎む習総書記は最近、党内向けに「虚礼廃止」の方針を通達した。この視察でも黒塗りの外車でなくマイクロバスを使って移動したのだが、実はこのマイクロバス、日本のトヨタ製「コースター」という車種だった。

■中国でのビジネスにも不可欠

 共産党の新しい総書記が、経済改革の継続をアピールする視察で日本製のマイクロバスに乗る──もう「反日」はやらない、というメッセージにほかならない。車種を特定するという大スクープを報じたのは、ほかでもない歌舞伎町案内人のこの私。使ったメディアは、8万人のフォロワーがいる微博だ。

 もちろん、中国当局の検閲下にある微博に欧米や日本のSNSのような自由はない。「習近平」の三文字もずっと検索禁止だった。それが最近になって検索可能になった。ただし、これも新リーダーの改革姿勢の表れ、と喜ぶのは早い。

「習近平」はOKだが、「習総」はNG。「総」は中国語で「最高の」という意味で、特にネットで使われるときは、相手を揶揄する場合が多い。要は習近平を褒めるのはいいが、けなすのは許さないということ。こんな中国政府のホンネも微博でなら読み解ける。

 政治だけではない。中国でビジネスをする企業も、もはや微博を避けて通れない。大雨の日に「コンドームを履いて帰れば靴が濡れない」と、PR会社を使って書き込んだコンドームメーカーや、CEOが自分のアカウントで直接消費者に不手際を謝罪することで、かえって新たな顧客を獲得したネット企業──。わが新著には日本企業にとっても参考になる実例がふんだんに盛り込まれている。

 先日、自民党の安倍晋三総裁が総選挙に勝って日本のトップに返り咲いた。安倍外交にとって最大の課題は中国。ただ大の中国ファンだという昭恵夫人も含めて、まだ微博のアカウントは開設していないようだ。もし使い方に迷うことがあったら......迷わず、わが新著を買ってほしい。参考になること請け合いだ。

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わが「19番目の子供」をよろしく!

プロフィール

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・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

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