VOICES コラム&ブログ
COLUMN コラム

中国で一番有名な日本人、加藤嘉一君への手紙

2011年07月10日(日)09時00分
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

印刷

今週のコラムニスト:李小牧

[7月6日号掲載]

 尊敬する加藤嘉一君へ──。

 先日は日本の震災をテーマにした香港フェニックステレビのトーク番組の収録、お疲れさまでした。このコラムをまとめた『歌舞伎町より愛をこめて』(阪急コミュニケーションズ)の中国語版『日本有病』の前書きも書いてくれてありがとう。中国版ツイッター新浪微博に60万人のフォロワーがいる君に書いてもらえば、完売間違いなしです。

 君は18歳のときに単身、名門の北京大学に留学。05年の反日デモのときに留学生会長として流暢な中国語でテレビにコメントして注目を集め、以後、中国でジャーナリストとして活躍を続けています。中国語で出版した本も既に6冊。君が「中国で一番有名な日本人」なのは間違いありません。まさに「勢如破竹(破竹の勢い)」ですね。

 私と加藤君は最近、日本で共著を出した仲でもあります。しかし私は人生の先輩として27歳の君に伝えなければならないことがある。それは君の生き方に関することだが、同時に日中関係に影響する話でもあるから、よく聞いてほしい。

 具体的に言いましょう。君は日本でのテレビ出演や執筆活動ではほとんど言わないこと、書かないことを中国での言論活動でかなり露骨に口にしている。それは日本の悪口です。

 先日のフェニックステレビの番組では、震災後に菅首相の支持率が下がったことについて「日本有病(日本は病気だ)」と発言しましたね。日本で23年暮らす私から見れば、四川大地震で多くの子供が手抜き工事の校舎の下敷きになって死んだのに、中央の指導者が誰も責任を問われない中国のほうがずっと「有病」です。

■心の中の「国境」を利用するな

 それに菅首相が被災者に「あなたたちは家がある」と無神経な発言をしたと語っていましたが、いつどこで発言したのでしょう。首相に常に同行している日本メディアはまったくこの「暴言」を報じていなかったようですが、これはどういうことでしょうか。

 英フィナンシャル・タイムズ紙の中国語版ウェブサイトのコラムでは、最近安全上の理由から減速することを決めた中国の高速鉄道について「430キロ出しても320キロの日本の新幹線より走行は安定しており、安全なことが実験で証明されている」と書きましたね。なぜ日本の新幹線を引き合いに出すのでしょう。こんな例はほかにもあります。

 若い日本人がたった独りで中国を生き抜き、ここまで成功するためには大変な苦労があったでしょう。だからといって日本や日本人を利用していいはずはありません。中国人にも日本人にも心の中に「国境」がある。君はその「国境」を利用している。中国で日本人の君がジャーナリストとして活動できるのは、中国政府が本当に嫌がる民主化や言論の自由について君が決して口にしないからです。

 君は中国の読者が日本の悪口を求めていることをよく理解している。ただ中国の知識人たちはとっくにその欺瞞に気付いている。新浪微博で指摘されているから知っているはずですが、君はそれを無視しています。私も確かに日本の悪口を言うけど、中国の悪口だって言う。日本の悪口を中国人に広めるのは、両国にとって決していいことではありません。

 大学を出て、社会経験や下積みもないままジャーナリズムの第一線で働く......一見華やかですが、どこか無理がなかったでしょうか。君は「外国で裸一貫から始めたところは李さんと同じ」と言いますが、最初から名門大学に入学できた加藤君と、ティッシュ配りから日本生活をスタートした私が同じはずはありません。

 どうでしょう、ホストや風俗嬢といった名講師陣を誇るわが「歌舞伎町大学」で一度学んでみては。庶民が作る歌舞伎町大学の教科書も、共産党が作る北京大学の教科書より有益なはずです。

李小牧(リー・シャム)

COLUMNIST PROFILE

Lee Xiaomu 李小牧(リー・シャム)

1960年中国湖南省生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て88年にデザインを学ぶ私費留学生として来日。歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動し始める。作家、レストラン『湖南菜館』プロデューサーとしても活躍。近著に『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社刊)『歌舞伎町より愛をこめて 路上から見た日本』(阪急コミュニケーションズ刊)がある。leexiaomu.com

最新ニュース

ワールド

焦点:「平和主義」か「産業保護」か、武器輸出規制に揺れるドイツ

2014.07.26

ビジネス

マードック氏「高過ぎる案件検討せず」、タイムワーナー念頭か

2014.07.26

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を12時間停止へ、ハマス側も停戦合意

2014.07.26

ビジネス

ドルが対ユーロで8カ月ぶり高値、独指標悪化受け=NY市場

2014.07.26

新着

インド

モディの改革は世界経済を救うか

腐敗と規制だらけの経済にメスを入れる構造改革がインドを中国に変える日 [2014.7.22号掲載]

2014.07.25
移民

急増する中国系移民にバンクーバーで高まる反感 

投資と引き換えに中国人移民を受け入れたものの、中国語や中国文化の氾濫に戸惑うカナダ [2014.7.29号掲載]

2014.07.25
国際情勢

イラクとシリアはウクライナとガザより深刻だ

ウクライナとガザの情勢がメディアの関心を集める影で、忘れられた2つの内戦が悪化の一途をたどっている 

2014.07.24
ページトップへ

Recommended

COLUMNIST PROFILE

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

MAGAZINE

特集:ウクライナ戦乱 撃墜の波紋

2014-7・29号(7/23発売)

298人が乗った旅客機がミサイルで撃墜──
ウクライナの悲劇は「独裁者」プーチンを追い詰めるのか

  • 最新号の目次
  • 予約購読お申し込み
  • デジタル版
Sound's View 自分を創る音の風景 豊田泰久さん
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

人気ランキング (ジャンル別)

  • 最新記事
  • コラム&ブログ
  • 最新ニュース
  1. 1

    中国に逆らい日本を支持したフィリピンの思惑

    アキノ大統領が東南アジア諸国で初めて「侵略国」日本…

  2. 2

    ヤフーの果てしない無駄働き

    広告の単価下落で減収減益が続くヤフーの巻き返し策は…

  3. 3

    わが子を1人で遊ばせるのが児童虐待?

    娘を1人で公園に遊びに行かせた母親が逮捕されたこと…

  4. 4

    やっぱり危ない中国食品、マクドナルドとKFCに打撃

    賞味期限切れの肉を販売していた上海の企業から仕入れ…

  5. 5

    マレーシア航空が今度はシリア上空を飛んでいた

    ウクライナでの撃墜直後に内戦のシリア上空を飛行した…

  6. 6

    アメリカは警官の性犯罪に大甘

    警官の立場と「ノウハウ」を利用した表に出ない性犯罪…

  7. 7

    イスラエルがこだわる「報復の原則」が生む悲劇

    少年3人が殺害された事件で証拠もないままパレスチナ…

  8. 8

    ギニア国境を越えたエボラ出血熱の恐怖

    これまでは僻地で発生し、隣りの村に感染する前に患者…

  9. 9

    NYの高級不動産が新たな資産隠し場所に

    規制が厳しくなったスイスの秘密口座の代わりとして富…

  10. 10

    反日による日本人欠場でゲーム大会中止に

    日中の尖閣問題からアメリカのイラン制裁まで、国家間…

  1. 1

    移民問題が「タブー」でなくなったわけ

    ここ数年、僕たちイギリスの国民は、一部の政治家か…

  2. 2

    ウクライナ東部、旅客機撃墜を取り巻く複雑な状況

    7月17日の米国東部時間のお昼前後に、「ウクライ…

  3. 3

    ろくでなし子氏の逮捕、何が問題か?

    漫画家で美術家の「ろくでなし子」氏が逮捕されまし…

  4. 4

    なぜ中国はいま韓国に急接近し始めたのか

    中国の習近平国家主席が、7月3日から韓国を訪問し…

  5. 5

    現代日本で「大家族化」は可能なのか?

    安倍首相は先週山口県で行った講演で、少子化対策の…

  6. 6

    「デフレ脱却」で賃金は下がり、景気は悪化する

    昨年4月、日本銀行の黒田総裁は「デフレが不況の原…

  7. 7

    日本の大学は学位を売る「ディプロマ・ミル」になるのか

    理研の小保方晴子氏の博士論文をめぐって、早稲田大…

  8. 8

    東京の伝統美を「破壊者」から守れ

    今週のコラムニスト:レジス・アルノー 〔7月1日号…

  9. 9

    嫌韓デモの現場で見た日本の底力

    今週のコラムニスト:レジス・アルノー 〔7月30…

  10. 10

    ガザ攻撃:ハマースはそんなに「脅威」なのか

    イラクでのISIS(イラクと大シリアのイスラーム…

  1. 1

    マクドナルドとヤムが謝罪、取引先で床から食肉拾う姿報道

    米マクドナルドとケンタッキーフライドチキン(KF…

  2. 2

    乗客4人の国籍、まだ分からず=マレーシア航空

    マレーシア航空は18日、ウクライナ東部に墜落した…

  3. 3

    「アルゼンチンはデフォルト覚悟」、債務再編拒否の債権者が批判

    アルゼンチン債務問題をめぐり、債務再編を拒否した…

  4. 4

    ウクライナ分離派への支援停止を、米大統領がロシアに呼び掛け

    米国のオバマ大統領は18日、前日のウクライナ東部…

  5. 5

    台湾の旅客機墜落で47人死亡、台風直撃で視界不良

    台湾の澎湖島で23日、復興航空(トランスアジア航…

  6. 6

    タカタ製エアバッグ搭載、三菱自が米で「ランサー」リコール

    三菱自動車は、破裂の恐れがあるタカタ製エアバッグ…

  7. 7

    イラン核協議は4カ月延長、交渉まとまらず=外交筋

    イランの核問題を協議する同国と主要6カ国は18日…

  8. 8

    墜落のアルジェリア旅客機、マリで残がい発見の情報

    西アフリカのブルキナファソを出発し、アルジェリア…

  9. 9

    ウクライナ部隊がブラックボックス発見、「所在地情報はない」

    ウクライナの緊急サービス隊が、マレーシア航空機の…

  10. 10

    フィリピン、南シナ海の領有権問題で近隣諸国との協議検討

    フィリピンのデルロサリオ外相は18日、南シナ海で…