コラム

イスラエルはイランを攻撃するか?

2012年03月18日(日)19時32分

 核開発をやめようとしないイラン。先日実施された国会議員選挙では、アハマディネジャド大統領に批判的な保守強硬派が多数を占めたと報じられています。この報じ方だと、まるで大統領がリベラル派か良識派であるかのように受け取れてしまいますから、驚きです。アハマディネジャド大統領が登場したとき、彼は保守強硬派と称されたのですから。

 経済について無知な人物が大統領に就任し、自身と同じ革命防衛隊出身者を取り巻きに配した結果、政権に経済がわかる人材がおらず、国内経済は疲弊。インフレが高進。これが大統領の人気低落につながったことは明らかでしょう。

 人気回復策といえば、いずこも同じ。「強い大統領」を演じること。核開発に対する他国の批判に腰砕けになっては、世論の支持が得られません。国際社会がイランの核開発を押しとどめるのは、一層むずかしくなっています。

 これに最も脅威を感じるのはイスラエルです。いまにもイランを攻撃するかのような主張を、イスラエル首相は続けています。ここでも国内世論を意識しなければなりませんからね。

「報道を見る限り、イスラエルがイランを攻撃するのは時間の問題のように思える」と、本誌日本版3月21日号の記事「イラン空爆論はただのはったり?」は書き出しています。

 論旨は、タイトルの通り。「イスラエルに空爆を実行する用意があることは、ほぼ間違いない。しかし、ネタニヤフ(首相)の発言ははったりの可能性が高い。強硬な発言がメディアで大々的に取り上げられれば、欧米諸国がイランにもっと強い措置を取り、あるいはイラン政府が怯えて国際社会の要求に応じるのではないかと期待しているのかもしれない」と解説します。

 しかし、「怖いのは、イスラエルが強硬な発言を繰り返しながらも攻撃に踏み切っていないため、脅しの本気度が部外者に分かりにくいことだ」

 このため、イスラエルが本気になってもイランは「はったり」だと受け止めるかもしれないし、イスラエルが本気でなくてもイランが脅しを額面通りに受け取るかもしれないというわけです。

 そうなると、「本来避けられたはずの戦争の引き金が引かれる恐れがある」。

 なるほどね。多くの戦争が、相手の考えを読み切れなかったり、読み間違えたりして起きていますからね。

 ところが、同じ号に「無人機を墜落させた? イスラエルとロシアの密約」との記事も掲載されています。これによると、イスラエルがグルジアに無人機を売ったことにロシアが怒り、両国協議の結果、イスラエルはロシアに無人機を操縦する暗号を伝えたというのです。

 一方、ロシアは、イランに売った対空ミサイルシステムを操作する暗号を知らせたとのこと。

 そうなると、「イスラエルはイランの対空ミサイル網を機能停止することができる」のです。

 イスラエルがイランを空爆する際には、イランの対空ミサイル網が脅威。ロシアとの取引が成立していれば、イスラエルはイランを攻撃しやすくなります。

 まったく別の記事を同時に読むことで、新しい視野が開ける。こんなチャンスを、この雑誌は読者に提供してくれます。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

見通し実現なら経済・物価の改善に応じ利上げと日銀総

ワールド

ハリス氏が退任後初の大規模演説、「人為的な経済危機

ビジネス

日経平均は6日続伸、日銀決定会合後の円安を好感

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    フラワームーン、みずがめ座η流星群、数々の惑星...2…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story