コラム

AI時代にGAFAへの一極集中はありえない

2019年05月15日(水)17時45分

──3月末にサンフランシスコで開催されたAI関連のカンファレンスを取材してきたのですが、20ほどあったセッションの1/3くらいは倫理をテーマにしたものでした。対話ロボットが人種差別発言をしたり、人事系アプリが性差別的なレコメンドをしたりして、開発した企業に対するものすごいバッシングが起こっています。AIを軍事目的に使っていいのか。軍にどの程度の画像認識や自動走行の技術を提供してもいいのか。非常に難しい問題が山積しています。確かに利益さえ追求していればいい、というフェーズではなくなってきている感じがしました。

辻井 そうなんです。社会的コンセンサスが必要になってきますから、民間企業だけではやっていけないでしょう。

といって中国のような公の利益や秩序を守ることを最優先したAIの利用方法でいいのか、という議論もあります。

──そうですね。中国政府は、政府の持っているデータを一部テクノロジー企業に提供している。なので中国企業のAIって、ものすごく進化が早いようです。一方で徹底した監視社会になりつつあります。交差点のカメラが顔認証するので、信号をきっちり守る人が増えたといいます。もちろん防犯の面ではいいことですが、そこまで徹底的に監視される社会ってどうなんでしょう。米国メディアなどは、そうした監視体制を批判する記事を多く掲載してますね。

米国と中国。AIで見た場合の世界は、この二つの経済圏に分かれている。米国はGAFA、中国は政府という、形は少し違いますが、中央集権型です。一方でヨーロッパはそれに反対して、非中央集権的な動きが起こってきています。ブロックチェーンなどの非中央集権技術は、ヨーロッパが最も進んでいるのもこのためですよね。

辻井 そうなんです。日本はヨーロッパに近くて、公や大手企業の価値を最大化するよりも、一人ひとりの幸せを最大化することのほうが大事だという考え方の人が多いですね。人間の尊厳や一人ひとりの幸福を守る形でAIを提供していこうというのが、ヨーロッパや日本の考え方です。

でも日本とヨーロッパの間にも、考え方に少し異なるところがあります。ヨーロッパではキリスト教の影響かもしれませんが、人間が万物の長であり、人間以外はすべて道具として使うことができる、という考え方が根底にあるように感じます。西洋の研究者ってAI研究の初期のころから、心と体は切り離されていて、心は人間にしかなく、合理的判断するのは人間だけという考え方を持っている人が多かった。人間の知性が最高のものであり、人間の知性を超えるものが誕生するという可能性に対して、恐怖があるんだと思います。

東洋にはそれがない。東洋の考え方では、犬や猫にも知性があり、人間の知性はそうした知性の1つの発展形にしか過ぎないという考え方です。

そして実際問題として、特定の能力に関しては今のAIの方が人間の知性よりも優れているというところが、いくらでもあります。

人間の知性のほうが優れている点、AIのほうが優れている点

──具体的に、どういう知性はAIの方が人間よりも優れていて、反対に人間の方が優れている知性というのはどういうものなのでしょうか。

辻井 例えば医療診断でガンを検知するなどという能力もそうです。大量のデータ、複数の専門医の知見、新たなセンサーなどを総合すると、1人の人間の専門家よりも的確な判断ができる可能性がAIにはあるわけです。

──大量のデータの中から、人間が気づかないような複雑な相関関係を見つけてくるということは、AIとってはお手のものですからね。そういう部分では人間はAIには絶対にかなわない。

辻井 機械が人間の能力を超えることは、産業革命の時も起こりました。速く走る、重い物を持ち上げる、などといった点で、機械は人間の能力を超えたわけです。同様に、今後は機械が知性の一部で人間を越えようとしているに過ぎません。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。

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