コラム

頭のよさって何ですか? 人工知能時代に求められる「優秀さ」「スキル」とは

2016年02月09日(火)17時15分

Yuri_Arcurs-iStock.

 もう何年も前に読んだ本なので正確には覚えていないが「気配りのススメ」という本の中で、多くの人の顔と名前を覚えていることが「頭のよさ」として書かれていた。確かに昔は記憶力のいい人、なんでも物事を知っている人が「頭がいい人」として賞賛されていたように思う。

 しかし今日では、どれだけ記憶力がよくてもメモリチップにはかなわないし、どれだけ物知りでも検索エンジンにかなわない。なので記憶力のいい人、物を知っている人のことが、「頭がいい人」と形容されなくなってきているように思う。

 これから人工知能が、急速に進化していく。そうなれば「頭のよさ」の定義ってどう変化していくのだろう。

 そういう観点で最近、『世界を変えるビジネスは、たった1人の「熱」から生まれる。』(丸 幸弘著、日本実業出版社)と、『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』(ティナ・シーリング著、CCCメディアハウス)という2冊の本を読んだ。2冊とも、これからのビジネスに必要な心構えやスキルというような観点で書かれているが、この2冊の中で書かれているプロジェクトを遂行する能力こそが、これからの「頭のよさ」の定義になるのではないかと思った。

yukawa160209-b.jpg

人間に残される領域

 人工知能が進化しても、人間に残された人間が得意とする領域があると言われる。一般的に言われているのは「クリエイティビティ」「マネジメント」「ホスピタリティ」の3つの領域。アーチストや経営者、接客業などは、これからも人間の仕事であり続けると言われることがある。

 ただこうした領域も既に一部、人工知能によって侵食されている。例えば人間が心地よいと感じるリズムや和音、メロディーには一定のパターンがあるらしく、そのパターンを踏まえて作曲する人工知能が既に登場している。試しにYouTubeで「Artificial Intelligence music」というキーワードで検索していただきたい。人工知能が作曲した楽曲が幾つもヒットする。人間が作曲した曲と比べて遜色があるのかどうか、ご自身で確認していただくといいだろう。米国では、人工知能が売れると判断した曲が実際にヒットチャートの上位に入るというケースが出始めているようだ。

 マネジメントも人工知能のほうが得意だという意見がある。例えば工場長という管理職は、生産性を上げることが仕事の目的になるのだろうが、工場のあちらこちらに様々なセンサーを配置し、それらのデータを基に人工知能がロボットや生産レーンを制御し効率運営するようになりつつある。「インダストリー4.0」などと形容される動きだが、人間が管理するよりも生産性が上がるのは間違いない。

 ホスピタリティの面でも、人間よりもロボットのほうが向いている領域がある。特に新3Kと呼ばれる「きつい、厳しい、帰れない」職場でも、ロボットなら文句ひとつ言わずに黙々と働き続けることだろう。

 恐らく職種で見るのではなくて、仕事の中身で見るほうがいいのかもしれない。前回のコラム記事「人工知能が万人のものに?米新興企業データロボットがヤバイらしい件」の中で、シバタアキラ氏が人間に残される仕事の中身について語っている。同氏によると、人工知能の「前」と「後ろ」が「人間がこれからも価値を出せる領域であり続ける」という。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、日本の自衛隊統合演習に抗議 「国境近くで実

ワールド

トランプ氏、カナダとの貿易交渉再開を否定

ビジネス

情報BOX:大手証券、12月利下げを予想 FRB議

ワールド

米中エネルギー貿易「ウィンウィンの余地十分」=ライ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story