コラム

人工知能はデータを富に変えられない、人間の「欲」が不可欠だ

2015年08月17日(月)18時00分

 GoogleやAmazonなどインターネット産業での勝ち組企業の最大の勝因は、データを多く集めたことにある。そういう認識が広まっている。また人工知能が急速に浸透し始める中で、データの重要性を認識する人は増える一方だ。今後ネットの影響があらゆる産業へと広がる中でデータとどう付き合うかが、多くの産業においてビジネスの勝敗を決めるようになるのは間違いないだろう。時代の変わり目だ。この時代の変わり目をチャンスととらえ、日本経済の再生をかけて国や民間企業などが、データを交換、売買するような仕組み作りを急いでいる。

 そんな中で、東京大学の大澤幸生教授は「新しい仕組みの中で最も重要なのは、人間の目的意識を発掘するプロセスをどう作り込むかだ」と主張する。同教授は、データを駆使するイノベーションシステムとしての「データ市場」という概念を、2013年から世界に先駆けて提唱し展開していることで有名な研究者。同教授によると、人は肉体を持ち、幸せに健康に生きたいという「欲」を原動力として生きる存在。データを核にした新しい社会の仕組みを構築しようという中で浮かび上がってくるこの人間の欲は、時に浅く、時に深く、日夜変化し、増大してゆく。人工知能の進化がどんなに喧伝されようとも、この欲の進化に追いつくことは難しいはず。「新しい社会の仕組みは、計算機ではなく人がリードしなければならない」と大澤教授は言う。

データ共有で向上する日本の経済力

 データの重要性は、広く認識されつつあるのだと思う。Googleが膨大なデータから、検索ワードに関連した結果を表示し、Amazonが膨大な購買履歴を解析することで「この本を買った人は、こんな本も買ってます」と推薦してきてくれる。GoogleやAmazonのサービスを使っている人であれば、彼らが持つ膨大なデータが彼らのサービスの使い勝手をよくしていることを十分理解できるだろう。

 良質のデータを多く集めたサービスの使い勝手がよりよくなり、その結果、より多くのユーザーが集まって良質の利用を行い、また良質の多くのデータが集まる。正のスパイラル。二番手との差は開く一方だ。

 これがインターネット産業の必勝の方程式だった。データ解析を人工知能が担うようになり、この方程式はますますパワフルになってきている。

 そして今、ネットがあらゆる産業の基幹インフラになろうとする中で、この方程式があらゆる産業に当てはまろうとしている。あらゆるものがネットにつながる時代。IoT(Internet of Things モノのインターネット)の時代に入る中で、自動車や製造業など日本の基幹産業にも、この方程式が当てはまるようになる。命運を分けるのは、データをどう選び、どう集め、どう利活用するかだ。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、米安保戦略に反発 台湾問題「レッドライン」と

ビジネス

インドネシア、輸出代金の外貨保有規則を改定へ

ワールド

野村、今週の米利下げ予想 依然微妙

ビジネス

中国の乗用車販売、11月は前年比-8.5% 10カ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story