コラム

こびる習近平をプーチンは冷笑? 中国・ロシア「対米共同戦線」の同床異夢

2019年06月18日(火)15時00分

中ロ国境を流れるアムール川に架かる橋の建設にも、中国は資金を拠出している。橋の建設は中国東北地方に暮らす中国人1億人がシベリアに流入する橋頭堡になるのでは、とロシア側の懸念は消えない。

そうした市民の反発にもかかわらず、ロシアへの経済進出は進み、中ロ首脳は関係を深めている。全てが中国の思惑どおりに進んでいるかのように見えるが、そこには中国にとって致命的な失敗が潜んでいる。中国の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)が進める第5世代(5G)通信システムに、ロシアの通信大手モバイル・テレシステムズが技術面で提携する、と契約を交わした点だ。

習はロシアの技術力を活用してアメリカと対峙したいのだろう。だがこの契約で、様子見していたヨーロッパ諸国をアメリカ側に追いやったことは間違いない。ヨーロッパはファーウェイとの提携拒否を求めるトランプ米政権の圧力に動揺する一方、歴史上はロシアからの侵略にはるかに敏感だ。5G通信網にロシアが参画したことで、ヨーロッパがアメリカになびくのはもはや時間の問題だ。

今回の首脳会談の勝者はロシアだろう。KGB時代にアメリカと争い、今は帝国の復活を夢想するプーチンにとって、習が5Gでこびを売ってきたことは願ってもないことだった。

「似た者同士」はどんな対米共同戦術を抱いて大阪に乗り込んでくるのだろうか。

<本誌2019年6月25日号掲載>

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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