コラム

米朝が繰り返す悲劇の歴史、忘れられた「ベトナム1968」

2018年07月14日(土)14時40分

「米帝国主義によるベトナム侵略」を止めようと、世界中で反戦運動が起きた。日本ではべ平連(「ベトナムに平和を!市民連合」)などがソ連など社会主義国の憧れを強めた。ヨーロッパでは68年にチェコスロバキアで自由と民主化を求める「プラハの春」が発生。世界的な反戦運動と連帯を模索しながらも、社会主義に憧れる西側の運動と思惑がずれたまま、ソ連の軍事介入で頓挫する。

結局、73年に米軍はベトナムから撤退。91年にソ連は崩壊したが、中国は89年に民主化を求める市民を天安門広場で弾圧し、共産党一党独裁のまま世界第2の経済大国に発展した。

68年から半世紀。アメリカでさえベトナム回顧の動きは見られず、世界中が68年を忘れようとしている。だがこの間、大国の思惑によってベトナムやチェコスロバキアの人々、さらには天安門の市民が見捨てられた。

今度は米朝首脳会談によって、北朝鮮の人々が見捨てられるのだろうか。歴史の呪縛は簡単に解けないようだ。

<本誌2018年7月17日号掲載>

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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