コラム

米中の太平洋東西分割で、日本が「中国ヤマト自治区」になる日

2017年11月25日(土)15時30分

確かに統一朝鮮も今の韓国のように中国べったりとなるだろう。だが中国艦が日本海に面した釜山や羅津を拠点に、オホーツク海を抜けて太平洋に出られるとは思えない。ウラジオストクを極東の拠点とするロシア海軍はそうした中国海軍の航行を喜ばないからだ。今や日本にとって朝鮮半島は「ナイフ」といえる存在ではないのだ。

南北統一で米軍の活動範囲が広がったとしても、今のアメリカには中ロと戦う心構えも政治的環境もない。さらに統一朝鮮と延々と歴史戦のようなイデオロギー論争を繰り広げることに、成熟した近代国家の日米両国民は大半が関心もない。

こうした点から、注視すべきは北朝鮮危機よりも「インド太平洋戦略」だ。現に新戦略をめぐり、攻防戦が始まっている。韓国は早速この戦略に不同意を表明し、中国の意向に沿った態度を鮮明にした。

既に文在寅(ムン・ジェイン)政権が中国に表明した「三不政策」――「THAAD(高高度防衛ミサイル)の追加配備」「アメリカのミサイル防衛(MD)網参加」「日米韓の軍事同盟化」の3つを行わないという約束を果たした形だ。

北朝鮮に有利になる三不政策を韓国にのませ、今度は米主導のインド太平洋戦略を無視させる......。これこそ、中国の本当の関心は朝鮮半島よりも太平洋にあるという証明でもある。

過度の北朝鮮批判で国際的関心が朝鮮半島一色になれば、日米同盟はおろか世界に対する真の脅威を見過ごしかねない。

<本誌2017年11月28日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story