コラム

中国からはアクセス不可に...共産党政権がChatGPTを恐れる理由と、中国発AIの脅威

2023年03月24日(金)18時39分
中国国旗とChatGPTの画面

Ascannio-Shutterstock

<ChatGPTはセンシティブな情報の漏洩を懸念する人たちだけでなく、情報をコントロールしたい国家にとっても不都合な存在>

2022年11月に公開されて、盛り上がりを見せている対話型AIのChatGPT。最近さらに最新バージョン(GPT-4)にアップデートされ、現在のところ多くがChatGPTを好意的に受け止めているようだ。

ただ一方で、一部のユーザーなどからChatGPTに入力した会話やデータが運営側に保存されてしまうのではないかという懸念が出ていた。事実、ChatGPTを開発しているOpenAIの公式サイトによれば、入力したデータは削除できないので「センシティブな情報は書き込まないように」との注意書きがある。

2023年3月23日、その懸念が現実になった。OpenAIは、ChatGPTに存在していたバグによって、一部のユーザーが他人の対話を見られるようになっていたことを報告したのである。個人の入力した対話だけでなく会社のセンシティブな情報なども漏れてしまう可能性が示されたわけだ。ただ同社は直ちにその問題を修復したと述べているが、今後また同じようなトラブルが出てくる可能性は十分にある。

■【動画】中国では利用禁止...中国政府が聞かれたくないことを、ChatGPTにいろいろ聞いてみた

そんなChatGPTを、冷たい眼差しで見ているのはプライバシーを懸念する人たちだけではない。自国内で情報をコントロールしたい国家も同様で、すでに中国政府が警戒を見せている。

そもそも中国ではChatGPTに公式にはアクセスできなくなっているが、個人でVPN(バーチャルプライベートネットワーク)を使うなどしてChatGPTにアクセスしている人たちがいると問題になった。そんなことから、中国政府はChatGPTにアクセスさせないよう大手IT企業などに指示を出したと報じられている。

なぜ中国がChatGPTを恐れているかと言うと、中国がオンライン上などで情報をコントロールするために構築してきた検閲システムが通用しなくなるからだ。

ChatGPTに「天安門事件」について聞くと...

事実、例えばChatGPTに「天安門事件」について聞くと、「天安門事件は、1989年6月4日に中国の北京市で発生した、民主化要求を求める学生デモが中国政府によって弾圧され、多数の死傷者を出した事件です」といった答えが返ってくる。こういった話は、中国政府が国民に伝わらないようにしてきた情報である。

その一方で、中国では中国最大の検索エンジンを提供する大手IT企業バイドゥが、独自の対話型AIの開発に乗り出している。ChatGPTは米マイクロソフトが多額の出資をしているが、バイドゥは「アーニー」という対話型AIの開発に多額を注ぎ込んできた。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英少女3人殺害事件、18歳被告に禁錮最短52年の判

ビジネス

大手投資会社の一部は仮想通貨に傍観姿勢、ビットコイ

ワールド

米政権、反DEIで官僚機構再編 トランプ氏「実力主

ビジネス

日銀、賛成多数で利上げ決定 翌日物誘導目標を0.5
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ人の過半数はUSスチール問題を「全く知らない」
  • 4
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 5
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 6
    「後継者誕生?」バロン・トランプ氏、父の就任式で…
  • 7
    電気ショックの餌食に...作戦拒否のロシア兵をテーザ…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 10
    【トランプ2.0】「少数の金持ちによる少数の金持ちの…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story