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イタリア事情斜め読み

ヴィズマーラ恵子|イタリア

イノシシの豚熱でイタリア産生ハム輸入停止の事態、現地の状況と根絶計画と管理措置

筆者撮影、無添加パルマ産プロシュート生ハム18ヶ月熟成もの、コッパ、サラミ、モルタデッラ。まろやかでなめらかとろける。

日本や中国などの国々は、アフリカ豚熱(ASF)のためにイタリア産食肉製品(生ハム、サラミ類)の一時輸入停止措置を講じた。
輸入停止の措置が解除される見通しは今のところ立っていないということで、影響は長期化する可能性がある。
豚熱は巨額の経済的損失により壊滅的な影響を及ぼし、硬化肉、ソーセージなど国際貿易に深刻な影響を及ぼしている。
今のところヨーロッパでは、豚熱の発生がない地域はイタリア産の豚肉や食肉製品は定期的に販売されており、これまでのところ罰則はなく、すべて通常通りに商品は一般流通している。

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筆者撮影、プロシュット(生ハム)を買う時は、種類を聞かれるので、サン・ダニエーレProsciutto di San Danieleと言う。イタリアのプロシュットのなかでも最高級品。切ってもらう時は、ウネット ペルファヴォーレ(100gください)と言おう。100g/6€くらい。お勧め!


日本の農林水産省CSF(豚熱)に関して のQ&Aによると、

A:CSFは、豚やイノシシの病気であって人に感染することはなく、また、感染した豚の肉が市場に出回ることもありません。仮にCSFに感染した豚の肉や内臓を食べても、人体に影響はありません。

内閣府食品安全委員会からも豚熱について、日本国内のCSFの発生に関する情報を得る事ができる。

イタリアの保険省も同じ見解で、ウイルスに汚染された食品を食べても人間が感染する可能性はないとされている。
そのため、豚肉ベースの製品を消費することができる。ただし、廃棄物は適切に処分する必要があると書かれている。


2007年以来、このアフリカ豚熱(ASF)はアフリカ大陸から黒海の港ジョージア州に船が上陸し、そこから最初にアルメニアとアゼルバイジャンに広がり、次にロシアに広がり、中国と東南アジアに上陸した。世界で最も豚の生産量が多いアジア太平洋地域では、600万頭以上の有蹄類の動物が殺処分された。

今年の1月以降、 1月7日から5月22日までに確認された陽性は124例であり、ピエモンテ州のアレッサンドリア県とリグーリア州のジェノヴァ県とサヴォーナ県の間に集中していた、そして、2022年5月5日ラツィオ州ローマ市の北部で見つかったイノシシの死骸から診断されたアフリカ豚コレラ(ASF)症例が確認されたのだ。
イタリアのイノシシの数は現在、標準の5倍になっており、イノシシの大群がゴミをあさるなどして街に蔓延っている。
ローマでの豚熱の感染症例は19例に上った。

最初の豚熱ウイルスが、リグーリア州にどのように到着したかについての仮説はさまざまであるが、ジェノヴァ港に停泊しているアフリカ豚熱(ASF)が発生している地域から来た商船に目が向けられた。汚染された豚肉の残留物を含む廃棄物がオープンダンプに降ろされ、そこに、動物が食べ物を求めて訪れる。サラミや汚染された豚肉を食べたイノシシが感染したという仮説を排除することはできない。
アフリカ豚熱(ASF)に感染した豚やイノシシは、ほとんどすべてが内出血で数日後に死亡するため、非常に恐れられている。
しかし、幸いなことに、それは他の種には伝染せず、人間にも感染しない。


| 既に豚熱を根絶させたヨーロッパの隣国から学ぶイタリア

チェコ共和国とベルギーは、長く複雑な介入によって豚熱の感染は2年で根絶させた。

チェコとベルギーは、300 kmにわたりネットを設置して感染地域を隔離し、健康な動物と病気の動物との接触を回避した。
イタリアは面積が非常に広いため難易度が高くても、これがイタリアが今からやろうとしていることである。

取り組んでいるツールは、フェンスとバイオセキュリティ、および感染したイノシシの死骸を探すことを含む受動的監視である。
リグーリア州とピエモンテ州では、感染地域が特定されており、主に2,800平方キロメートルの山岳地帯である。この地域では、ヨーロッパの安全手順により、接触の可能性を回避するために農場ですべての豚を予防的に早期屠殺をすることが規定された。
これら有蹄類動物は、野生のイノシシ科との密接な接触を未然に防ぐことができる効果的なバイオセキュリティバリアを作成することが不可能で、多かれ少なかれ感染する可能性はあるし、より危険にさらされていると考えられており、現時点では、ウイルスの拡散を食い止めるためにはやむを得ない不可欠な措置であろうという。
動物福祉団体は健康な動物の殺害に絶対に反対しており、他の解決策を望んでいる。


実際、イタリア保健省の回覧には、野生または半野生の農場に住むすべての豚とイノシシの屠殺と即時殺害、および6か月間の補充の禁止を規定している。


2022年2月17日法令-「第九条 アフリカ豚熱(ASF)の蔓延を食い止め、ウイルスの拡大を阻止するための規定」をイタリア政府は発効し、緊急措置を命じた。
法令には、豚熱の管理と根絶のための地域計画を30日以内に採用しなければならないとある。
豚熱封じ込め計画は、州ごとに分割した領域内のイノシシを一貫して認識・把握すること、直接介入の分野、方法、時間、診断テスト、サンプリングの年間目的を含めた計画でなければならないというもので、死骸の存在を監視して、感染した地域が拡大しないように豚熱を根絶を目指す。

最後の陽性の死骸から少なくとも1年はその土地は監視する必要があるという。
レッドゾーン内でのわらと干し草の販売が禁止されたため価格が高騰し始めた。
販売停止の影響を受ける飼料会社は約100社あり、全国の養豚場が影響を受けることになる。

5月17日、ローマはアフリカ豚熱(ASF)の蔓延を封じ込める新しい条例に署名した。
署名したその日も、ローマで豚熱の影響を受けたと宣言されたイノシシの死骸の数は8頭に増えていた。

Tg2000より2022/05/11:ローマで撮影された豚コレラの症例。 イノシシが単独で、または通りを縦横無尽に歩き回り街の治安が悪化している緊急事態。 論争はゴミ箱から溢れるゴミにまで飛び火。

「そもそもなぜ、こんなにもイノシシが増えてしまったのか?」

それは、ローマの北にあるインスゲラタ自然保護区から逃げ出した野生のイノシシが、街の中心部にまで降りてきてしまったためである。

インスゲラタ自然保護区から野生動物が出ないようにするために、まず、公園や保護地域から動物が抜け出していた"抜け穴"を全て塞ぐ修繕工事をしたり、老朽化した柵は新しいものに換えるなど、早急に行う必要があった。
既に街へ流出してしまっているイノシシについては、封じ込め作戦で捕獲活動を強化している。
狩猟期間は3ヶ月間を設けていたが、それを5ヶ月間に延長し、街のレッドゾーンをさらに拡大して一時的な閉鎖を行って狩猟をするという。
2019年には、イタリアでは約30万頭のイノシシが狩猟された。ローマ市では1万頭が狩猟された。


バルドゥイナ、トリオンファレ、モンテマリオ、オタビア、カミルッチアの住民は、イノシシが繁殖する場所であるインスゲラタ自然保護区に近いため、最も影響を受けた地域である。なので、現在は夜間外出禁止令を課されており、20時半以降は外に出てはいけないことになっている。
実際に、女性がイノシシ8頭に襲われ、全治3週間の怪我を負ったという事例もあった。
野生のイノシシは獰猛で危険なので、外出を控えるようにするという目的で夜間外出禁止令を出すのは、いささか行き過ぎた警戒のように感じるが、実はそれだけの目的ではない。

夜間外出禁止によって人流を減らすことは重要で、ウイルス蔓延防止を徹底し、怠ってはならないからである。
ハンター、観光客、漁師、さらにはフードデリバリーなど自転車で移動する人でさえ、靴や衣服を介して意図せずにウイルスを運ぶ可能性があるため、監視下のエリアにアクセスはできないようにしたのだ。
ペットの犬の立ち入りも禁止。泥だらけの足や豚熱に感染したイノシシの毛が体についたまま農場に入れば、ウイルスが伝染する可能性があるためとされている。キノコやトリュフ狩り、釣り、トレッキング、マウンテンバイク、こういったものも禁止になった。
あらゆる形態の狩猟、犬の訓練、病気の蔓延を促進するその他の活動は禁止されている。
また、屠殺場以外の保護区で捕獲されたイノシシの移動禁止。これらの地域では、イノシシや死にかけている動物の死骸の存在を報告する義務がある。


| 汚染された排泄物中のウイルスは活動を続けている

豚熱のウイルスは、長い耐性を持っている。

ウイルスは、動物の糞便で2日間、腐敗した死骸の臓器で3〜4日間、血液と骨髄で15日間耐性があるという。
ハムでは188日間、サラミでは60〜75日間、燻製肉では25〜90日間の耐性があるという事が、ヴェネツィア実験動物予防研究所(IZSVe)の獣医疫学の研究で明らかになっている。
新鮮な冷蔵肉では数週間生き残り​、冷凍肉では数ヶ月経っても残っているものもある。

ローマは、道路沿いに巨大コンテナが設置されてあり、それが街の景観を壊すゴミ捨て場である。ゴミ出しの曜日などルールはなく、いつでも捨てる事ができ、いつでもゴミは満杯でゴミ箱の外にも溢れかえっている。悪臭が漂い、害虫は湧き、とにかく酷く汚い。
豚熱に感染したイノシシが頻繁に訪れる場所の廃棄物が、まったく管理されておらず処理されていない場合は、イノシシが触れたゴミがそのまま埋め立て地に行き着くと、また別の問題が発生する要因となる。
考慮すべき他の要素として、このゴミにも豚熱のウイルスは潜んでいると考えるべきである。

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iStock- foto Zigmunds Dizgalvis

外界との接触を避けるために、トラックの洗浄、オペレーターの衣服や靴の衛生、封じ込めネットに注意を払いながら、養豚場のバイオセキュリティを強化することが不可欠だ。

現在、多くの研究が行われているワクチンが利用できないことを考えると、感染と戦う唯一の方法は、病気のイノシシがいる地域を隔離することで、生物学的真空を作り出すことによって、その領域をきれいにすること、これに限るだろう。

| イノシシの豚熱と監視

アフリカ豚熱(ASF)は、イノシシ科の ウイルス性疾患であり、人間には伝染せず、家畜のブタとイノシシ(生物学的に同じ種の Sus scrofa)の両方に影響を与える可能性がある。
今日、治療法やワクチンがないこの病気は、影響を受けた動物にとって非常に深刻で致命的なものであり、豚の家畜生産に甚大な被害をもたらす可能性がある。現在の疫学的状況を鑑み、必要な検査と調査を迅速に進めるためには、疑わしいと思われる症例があれば直ちに保健当局に報告することが不可欠となる。特に、イノシシの死骸を発見した場合は、豚熱の感染が疑わしい。

最近の症例の確認に続いて、ウンブリア・マルケ国立実験動物予防衛生研究所と豚熱(ASF)ウイルスアスファウイルス科アスフィウイルス属の研究のための国立センター( IZSUM)
は、養豚場での監視活動を国土全体で強化することを推奨しており、とりわけ、「イノシシの死骸を追跡」し、「検査の強化」にあらゆる努力を払うようにという投げかけを行っている。

ベネチア実験動物予防研究所(IZSVe)のサイトで、イノシシの受動的監視の方法や詳細な最新情報が入手できる。

豚熱による養豚のリスクとは何か?どうすれば回避できるか?豚熱の撲滅に必要な個人や組織が施設ごとに実践している予防活動などを100秒のビデオで紹介している。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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