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ラッシャー貴子|イギリス

会うべきか、会わざるべきか - コロナ禍のクリスマス

(ロンドン市内の目抜き通り、リージェントストリートのイルミネーション。外出を控えている今年は見られないと思っていたけれど、仕事帰りに偶然通りかかることになった。例年より見物人が少なくて写真が撮りやすかったのは、嬉しくもあり悲しくもあり。筆者撮影)

クリスマスは、英国でももちろん大きなイベントだ。秋が深まると朝晩がみるみる暗くなって気分も落ち込むが、クリスマスのイルミネーションが灯されると街がぱっと華やかになる。デパートや専門店はクリスマスプレゼントを探す人で大にぎわい。家庭や職場でもクリスマスツリーやデコレーションを飾り、早くから七面鳥を予約して、クリスマスのお菓子を食べ始める。

12月に入ると、クリスマスカードが続々と届き始める。当日まで待たずにどんどん開封してあちこちに並べるので、これもにぎやかな飾りの一部になる。プレゼントは少し前から用意して、25日の朝まで開けずにクリスマスツリーの下に置いておくのが英国式。次々と並べられていくプレゼントをちらちら見ながら中身を想像していると、大人でもやっぱりうきうきするので、子どもがいる家ではどれほどにぎやかなことだろう。12月は毎日がちょっとしたクリスマス祭り状態。この当日までの準備も時間もすべて含めて「クリスマス」なんだなというのは、暮らしてみて初めてわかったことだ。(ただし英国の中でも、スコットランドではクリスマスより大晦日の方が大きなイベントだそうだ。実際に経験したことがないので、どのくらい規模が違うのかはわからないけれど)。

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(12月に入ると、クリスマスツリーが売られ始める。どの枝ぶりがいいか、あれこれ物色するのも楽しいもの。お目当てを決めると、写真の手前にあるようにネットを被せて、持ち運びやすいようにすぼめてくれる。筆者撮影)

クリスマス当日は、実家に帰ったり独立した兄弟と集まったりして家族で過ごす人が多い。ロイヤルファミリーのように教会に行く人たちもいるが、カトリックの国ほど多くないようで、全体にクリスマスは季節行事という印象が強い。ちょうど日本のお正月とか年末年始のようなもので、毎年家族が集まって伝統的に決まったものを食べる。たとえば七面鳥とか(添え物の野菜には芽キャベツがお決まり)、クリスマスプディングとか。クリスマスプレゼントはお歳暮やお年玉に感覚が似ているし、当日はお腹いっぱい食べて飲んで、テレビを見たりゲームをしたりするだけというのもどことなく元日を思い浮かべる時間の過ごし方だ。

そんなクリスマスを楽しみにしている人はもちろん多いが、今年はコロナ禍のまっただなか。やはりいつもと様子が違っている。

クリスマス2020 - 2.jpg(筆者撮影)

上の写真は、オックスフォードサーカス付近。毎年飾られるイルミネーションは、例年より早く、二度めのロックダウンに入る前に点灯された。いつも楽しいモチーフも、今年は医療現場や配達などで働く人たちへの感謝と賛美のメッセージが横断幕に流れるというコロナ仕様だ。

このあたりはいつも観光客や買い物客で大にぎわいのエリアだが、特にクリスマスの時期にはイルミネーションを見物する人も加わって、ときどき身動きできなくなるほど混雑する。外出が制限されている今年は人出がずっと少なかったが、クリスマスプレゼントの買い物客を見込んで歩行者天国になった週末には、人がどっと押し寄せて問題になった。あれあれ、今年はいつもと違うっていうのを忘れちゃったのかな、歩行者天国にした側も、買い物に出かけた側も。

クリスマス2020 - 4.jpg

(同じエリアのカーナビーストリートのイルミネーション。去年は確かロブスターやイルカのポップな飾りで、いつもファンキーなことで知られているが、今年はここも、色こそ明るいが「希望」「ヒーロー」などと書かれたシンプルなものだった。筆者撮影)

秋ごろからコロナウィルスの話題になると、「クリスマスまでには落ち着かせたい」「クリスマスを楽しく過ごすために規制を今厳しくすべき」という表現が使われて、いつもどおりにクリスマスを過ごすことがひとつの目標のようになっていた。英国の人たちにとってクリスマスに誰にも会わずに過ごすことは、日本人が正月を一人で過ごすくらいわびしいことのようだ。年老いた親にそんな思いはさせられない、クリスマスぐらいは孫の顔を見せてあげたい、という気持ちが強いらしい。

12月初め、イングランドは2回目のロックダウンが終わり、地域ごとの3段階の警戒体制に戻った。たとえばロンドンは3段階のうち真ん中のレベル2で、同居していない人とは家族であっても屋内で会えないことになっていた。ところがすぐにクリスマス期間は特別に規制を緩めることが発表されて、12月23日から27日までの5日間、イングランドではどのレベルの地域でも、人数の制限なく3世帯まで個人の家の中で集まることが許可された。なんとお泊りもありだ。

同時に、「ただし」という注意が付け加えられた。「ただし、(感染すると重篤化しやすいので)お年寄りにハグやキスはしないように。クリスマスにつきもののボードゲームもやめてください(近寄りすぎるからかな)」。つまり、家に集まって泊まってもいいけれど、あとは自粛してね、ということだ。

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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