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中国航海士・笈川幸司

笈川幸司|中国

第9回 中国のスピーチ大会について

中国の日本語コンテストで多いのがスピーチ大会だ。

「主催校が必ず優勝」「インチキに違いない」という声も大きい。実際この十年、高校生、大学生のスピーチ大会の審査をさせていただく機会があり、外野の声が正しいと思ったこともあるが、全部が全部そうだとは言わない。

ある大会のこと。出場者全員の発表が終わると、会場から「絶対優勝だ!」と思われていた学生で、審査員だったわたしの評価が総合点99点(ほぼ満点)だったある学生は、最終的に10位前後だった。その学生の先生から「理由を聞きたい」と言われ、こっそり審査表を見てみた。すると、驚いたことに、わたしが99点をつけたその学生に、その学校とは関係のない二人の審査員が「48点」「46点」という、見たこともない酷い点数をつけていたのだ。

主催校の学生を優勝させるため、自分の学校以外の審査員が、優勝候補の学生の点数を低く抑えるという手法を使ったのだろう。ただ、わたしは大会前日に会場に到着し、その二人の審査員は、その前の日に会場入りしていたそうなので、主催校と二人の審査員との間で、どんなやりとりがあったのかは見ていない。何があったかはわからないが、優勝候補の学生に明らかに低い点数をつけたのだから、そこで何かがあったのだろう。

しかしながら、これはあくまでも特殊なケースだということを強調したい。

もう一つ、これは明らかな不正ではなく、審査員による「忖度」が学生の成績を左右するという例をご紹介したい。

審査員席の真ん中に、主催校の先生が座っていることがある。それが権威ある先生で、教育熱心だからか、身内の学生の発表中、必要以上に頷いて聞いていることがある。その異様な空気に気づいた他の審査員が、その学生に高い点数をつけることもあるのだろう。たまたまわたしが見ていた大会で、ある学生は、即興スピーチで制限時間ギリギリまでほとんど話すことができず、ゴングの音とともに退出してしまった。しかし、その学生が優勝してしまったのだ。

ただ、北京ではそのようなケースはないのではないか。

今秋、中華杯という伝統のスピーチ大会予選が中国各地で行われた。covid-19の影響から、全てがリモート大会になった。これまでは、他大会の予選の様子を見ることはできなかったが、今回はどの地区の学生のレベルが高いか、誰もが知ることのできる良き機会になったのだ。

北京大会の様子を、他省の学生、先生が注目し、多くの人が生放送を見ていた。

以下は、大会を見た他省の先生方の声である。

「どの出場者もセリフをただ棒読みするだけで、心を込めてスピーチする学生がほとんどおらず、即興スピーチのテーマも難しかったからか、途中退出する学生が多かった」

「準備期間が短かったからか、単に準備を怠っただけなのかはわからないが、レベルの低い大会だった。審査員長もその点を指摘していた。中国全土で日本語熱が高いとしきりに言われているが、コンテストを通し、首都北京では、日本語をまともに勉強している雰囲気が感じられなかった」

厳しい意見が多かった。

数年前、首都に住む学生たちが、スピーチ大会熱が高すぎて、不正までしかねない地方大会を冷めた目で見ていたのを感じたことがあるが、それがいま、加速しているのかもしれない。だから、日本語コンテストに力が入らないのだろう。

不正のあるコンテストを冷めた目で見ているのは学生に限ったことではない。伝統校や主催校のメンツを立てることを馬鹿馬鹿しいと考え、不正を徹底的に排除している主催校もある。メンツや忖度はすぐ消えるものではないだろうが、時代の変化が感じられる。

最後に、ある中国人の友人の言葉を借りて、この章をまとめたい。

「我々中国人は、極端から極端へ走るところがある。したがって、今後はクリーンなコンテストが残って行くだろう」

ただ、個人的には、主催校の学生が失敗した時に、点数を操作して優勝させるのではなく、三等賞入賞程度に納めておけば、大会終了後の懇親会でも、スポンサーをはじめ、誰も気まづい思いをしないで済むのではないかと思っている。

では、なぜ、そんなにスピーチに力を入れるのか?といった疑問を持たれる方がいらっしゃるかもしれない。理由は非常にシンプルで、優勝はおまけだ。一番大事なのは自分を表現できるからだ。猛特訓を受ければ、誰だって以前知らなかったスキルを何十何百とマスターできるようになる。講談師の神田伯山のような語り口が一箇所でもマスターできたら、そのシーンで会場が必ずどよめくだろう。目指すところは高い方がよいし、舞台で力を発揮できたときの喜びは、それまでの苦労を忘れるくらい大きい。この喜びに付き合ってくれる学生がいるからこちらも一生懸命になれる。ただ、それが理由だ。 

Profile

著者プロフィール
笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。中国滞在20年目。北京大学・清華大学両校で10年間教鞭をとった後、中国110都市396校で「日本語学習方法」をテーマに講演会を行う(日本語講演マラソン)。現在は浙江省杭州に住み、日本で就職を希望する世界中の大学生や日本語スキル向上を目指す日本語教師向けにオンライン授業を行っている。目指すは「桃李満天下」。

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