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アルゼンチンと、タンゴな人々

西原なつき|アルゼンチン

健康志向高まるブエノスアイレス。この街に増えたものから見えること


牛肉消費量世界No.1の国での菜食主義ブーム

ということで、伝統的なレストランなどは別として、飲食店でのグルテンフリーマーク(「SIN TACC」というものがグルテンフリー食品の目印です)をよく見かけるようになりましたが、グルテンフリーブームだけではありません。
ベジタリアン対応マークも、メニューの中に見つけることは同じく容易で、今やどこに行っても珍しいものではなくなりました。
この国でのお肉の極端な消費や売られ方の生々しさ(店内のケースに一頭まるまる皮が剥がされただけの状態の牛、豚、うさぎなどがぶらさがっているお店もあったりするのです。)もあってか、お肉を食べなくなる人も多いのです。
私の周りの音楽家仲間の話ではありますが、例えば20~40代くらいの人たちと新しくグループを結成すると、5人に1人はベジタリアン・またはビーガンがいる、というくらいの割合です。


アルゼンチンをよくご存知の方の中には、このことに違和感を覚えられる方もいらっしゃるかもしれません。
アルゼンチンは人口よりも牛の頭数の方が多く、(人口 約4500万人に対し牛の数は約5400万頭/2021年)、人口1人当たりの牛肉の消費量が世界No.1の国です。
今年もこんなことでばっちり1位に輝いているアルゼンチンではありますが、その消費の値は年々減少傾向にあり、これは近年の経済危機や失業率の増加、生活習慣の変化によるものと言われています。
こちらの記事内の報告書によると、2020年の牛肉消費量は人口一人当たり平均50.2キロとなり、前年比2.2%の減少であったそうです。
記録が残っている範囲内では、今世紀初頭の消費量よりも25%、50年前の一人当たりの平均消費量よりも40%も低い値になったのではないかと指摘されています。(他の種類の肉、鶏肉や豚肉の需要は増加しています。)


とにかく家族や友人同士で集まることが大好きなアルゼンチン人は、週末には客人を招いて「アサード」と呼ばれるアルゼンチン式BBQパーティーを行うところが多いのですが、このアサードの開催回数は激減していると感じます。
私がアルゼンチンに来た7年前には、週末になると街じゅうでどこかのバルコニーからお肉を焼く匂いが漂い、お誘いもよくありました。それが、ここ数年の経済危機に伴い年々とその習慣は薄れています。
友人同士でも、一年で何回アサードやった?という皮肉めいた話にもなります。多くの中流階級層の人々にとって特別なものではなかった日常的なイベントが、今や「特別なときにだけ行われるもの」、という感覚に移行しているように感じます。


このことに関しては、国内の経済状況の悪化(現地通貨の価値の下落など)により、国外へ牛肉が輸出される量が増え、それに伴い国内の牛肉の価格が値上がりしていることが一番の問題です。
これは数年前からじわじわと起こっていたことなのですが、ついに先月「30日間の牛肉の輸出停止措置」が大統領令として発表されました。
そして先日(6月23日)、この措置が2021年末までに延長され、「一部の牛肉の部位の輸出は禁止、その他の部位の輸出量を前年比50%までにするように」、と発表されました。
現在の左派政権と畜産農家のオーナーたちの睨み合いのバトルは根が深く、政権が変わるたびにこの状況が変わるため、選挙の際の「輸出に関しての規制案」は大きな鍵を握っています。


この街中に激増する健康食品店は、ヘルシー・オーガニック志向の高まりだけでなく、アルゼンチンの経済状況の変化による食生活の変化がもたらした新しい需要、とも言えるのかもしれません。


個人的には、小麦でお腹を膨らませてお肉ドーン!というがっつりなアルゼンチン料理もたまには良いですが、至るところでヘルシーな選択肢が増えたことはとてもありがたく、健康食品店が近所に増えるのも嬉しいことのひとつです。



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*おまけの話。

先に書いたように、人が集まればピザ屋に行く(?!) 国ですが、グルテンNGやビーガン(動物性のものがNG=チーズがダメ)の人たちはどうしているのか?という問題。
どこのピザ屋さんにも大抵メニューにある、昔からのアルゼンチン独特の食文化である「ファイナ」という食べ物があります。
これは何かと言うと、ひよこ豆粉を薄いパンケーキのように、1枚のピザと全く同じサイズに焼いた生地のこと。味付けは塩味のみ。注文すると1カットのピザと同サイズにカットされたものが出てくるので、ピザに重ねて一緒に食べます。
食感はパンとは違い、モサモサして口当たりが悪く、個人的にはコレだけでは美味しいと言えるものではないと思うのですが、より満腹にはなれることは間違いありません。そして食べていると段々とファイナがなくてはならないような、不思議な病み付き感がなきにしもあらずなのです・・・。
食べごたえをアップさせるために注文する人が多いだろうと思うのですが、ビーガンや小麦NGの人が増えている昨今、その需要は「食べごたえ」のみならず。ピザが食べられない彼らにとっては、ピザ屋ではファイナが唯一食べられるものであり、なくてはならない大事な選択肢ともなっているのです。


 

Profile

著者プロフィール
西原なつき

バンドネオン奏者。"悪魔の楽器"と呼ばれるその独特の音色に、雷に打たれたような衝撃を受け22歳で楽器を始める。2年後の2014年よりブエノスアイレス在住。同市立タンゴ学校オーケストラを卒業後、タンゴショーや様々なプロジェクトでの演奏、また作編曲家としても活動する。現地でも珍しいバンドネオン弾き語りにも挑戦するなど、アルゼンチンタンゴの真髄に近づくべく、修行中。

Webサイト:Mi bandoneon y yo

Instagram :@natsuki_nishihara

Twitter:@bandoneona

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