──今回のコロナウイルスによるパンデミックは不測の事態だったと思うのですが、その中で新たに事業または組織として舵取りをした部分はありましたか。(聞き手:中屋敷 量貴

内藤:コロナの感染拡大が深刻になり、パンデミックが宣言されたあたりから、他の多くの企業が人員の大幅削減を行う中、弊社Anyplaceに限って言うと従業員を解雇したりといったことはありませんでした。社内のコミュニケーションで行って良かったなと思う部分は、ひとまず目先の売り上げやGMV(流通取引総額)はコントロールできないので、一切無視してプロダクトの改善に集中しようというメッセージを社内に浸透させたことです。

弊社はAnyplaceという、デジタルノマド向けに、ホテルや家具付きのアパートを月単位で賃貸できる事業をやっているのですが、パンデミックで世界的にロックダウンが始まった3月当初は、そもそも人が移動しないので新規の予約が発生しませんし、入居していた顧客も実家や祖国に帰るケースが増えGMVがガクッと下がりましたが、とはいえこれは自分たちがいくら頑張ってもコントロールできるものではありません。

コントロールできない部分はいくら気にしても仕方がないので、そうした目先の利益はひとまず無視して自分たちがコントロールできるプロダクトやユーザーエクスペリエンスの改善に集中しようというメッセージを組織内部で浸透させ、集中するべき方向を変えました。今振り返ってみると、これは会社にとってすごく良かったなと思います。売り上げのトップラインを気にしながら事業を作っていくと、プロダクトやユーザーエクスペリエンスの改善が置いてけぼりになり、短期的な顧客獲得に社内のリソースを集中させるような引力が働きます。とにかく今はプロダクトを改善して顧客体験を向上することに集中できているのは、長期的に考えると会社にとって良いことだと思います。

事業におけるコロナの影響でいうと、ドメスティックなデジタルノマド、いわゆる国内で移動するリモートワーカーの人たちの利用が増えていて、7月以降はGMV(流通総額)が少し戻ってきました。以前の記事でお話したように、多くの人がリモートで働くことが可能になったことで、ベイエリアやニューヨークといった大都市からコロラド州のデンバーやテキサス州のような比較的物価が安く自然に囲まれていて住みやすい場所に人が移動しているので、数ヶ月の間隔で滞在できるフレキシブルな賃貸のニーズを我々のプロダクトが、汲み取れているのかなと思います。供給側に関しても、ホテルや民泊での空室がコロナの影響で増えているので、その在庫を月単位で埋めたいというニーズが高まっており、最近だとインバウンドでの問い合わせを多く頂いています。

まとめると、3月から始まったコロナウイルスの影響で、プロダクトの改善やユーザーエクスペリエンスの向上に集中しやすくなったことや、リモートワークが一般的になったことで、デジタルノマドのライフスタイルが広がりつつあること、ホテルや民泊のオペレーターが新しい方法で空室を埋めようとしていることなど、弊社にとってはチャンスが生まれています。コロナウイルスの影響を、むしろプラスに活かして成長しているスタートアップは意外と多いと思います。

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──内藤さんが卒業されたLAUNCH Acceleratorの創業者であり、UberやRobinhoodの初期投資家でもあるジェイソン・カラカニス氏からは、何か事業に関してアドバイスをもらいましたか。

内藤:ベイエリアでの自宅待機命令が出た3月当初に関していうと、ジェイソンはとにかく会社のランウェイ、事業資金を確保しようというメッセージを投資先の会社に出していました。とりわけ3月や4月はコロナウイルスの影響で、今後経済がどうなるかがまったく見通しの立たない状態だったので、とにかく今契約しているSaaSのサービスを全てリストアップして不必要なものは片っ端から解約して出費を減らせと言っていましたね。あとは資金調達ができるのであれば、資金を調達してランウェイを確保しろと。なので、LAUNCH Acceleratorに入っていた企業で、従業員を解雇した企業もあるでしょうし、資金を確保するためにブリッジで資金調達をするなど、様々な形でランウェイを確保して、不確実の環境をサバイブする方向性で動いていた時期でした。

一方で、7月あたりにはコロナによる影響や、コロナを前提とした生活の仕方に見通しが立ってきたこともあり、スタートアップの経営者が当初抱いていた不安は和らいだ印象があります。それこそコロナの影響で伸びている企業もあるので、採用を再開しているところも多いです。当初考えられていたほど、バタバタ会社が潰れていくという感じでもなく、みんな頑張ってコロナの影響があったからこそのチャンスを見つけて事業を伸ばしているように思います。

一方で、弊社Anyplaceに関していうと先述したように、以前から短期的な売上ではなく、プロダクトの作り込みと改善に集中したいと考えていたのと、ベイエリアの先輩起業家であるキヨさんからもそういったアドバイスを頂いていたので、その方向に舵を切りました。ランウェイのあるスタートアップにとっては、今回のパンデミックはプロダクトの改善に集中できる良い機会になったと思います。幸い弊社はパンデミックの前に資金調達を終わらせていたので、自分たちがコントロールできるプロダクトの改善の部分に集中するよう舵を切れたのは、長期的に見て会社にとってプラスになったはずです。