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ヨシヒロミウラ|ベトナム

EVの次は宇宙進出 Vingroupが仕掛けるベトナム版SpaceX

■ベトナム最大財閥が宇宙を語り始めた

ベトナム最大財閥Vingroupが設立した新会社「VinSpace」。
資本金3000億VND規模で、宇宙機器製造や衛星関連事業を視野に入れるというニュースは、ベトナム経済界に小さくない衝撃を与えた。
電気自動車のVinFast、スマートシティ、大学、AI研究、製鉄業。Vingroupはこれまでも国家戦略と重なる分野に民間資本を大胆に投じてきた。宇宙はその延長線上にある。

「SpaceX型」は簡単ではないという現実

一部では「ベトナム版SpaceX」という言葉も出る。しかし、米国の宇宙産業はNASA、軍需技術、巨大投資、そして失敗を許容する文化の上に築かれた特殊なエコシステムだ。だからこそ、VinSpaceの現実的な入り口はロケットそのものではなく、小型衛星や宇宙データ活用になるだろう。農業監視、都市計画、海洋管理、防災――急成長国家ベトナムには、宇宙データを必要とする分野が数多く存在する。

宇宙ビジネスは「打ち上げ」より「活用」

宇宙産業の収益源は、ロケットよりもその先のサービスにある。衛星を打ち上げることが目的ではなく、そこから得られる情報をどう経済活動に接続するかが本質だ。Vingroupが持つ製造基盤、AI研究、人材育成機関。これらが宇宙データと結びつけば、ベトナム独自の宇宙モデルが見えてくる。

▪️ベトナム最南端という地理的ポテンシャル

地図を開くと、もう一つの可能性が見えてくる。
ロケット打ち上げは赤道に近いほど有利だ。地球自転の速度を「追い風」として利用できるからである。ベトナム最南端のカマウ岬は北緯約8度台、フーコック島も北緯10度前後に位置する。東側には南シナ海が広がり、理論上は海上へ安全回廊を確保しやすい立地だ。もちろん、環境影響評価、国際航路との調整、安全保障、インフラ整備など課題は山ほどある。それでも、地理的条件は決して悲観的ではない。観光地として知られるフーコック島が、将来「宇宙の玄関口」と呼ばれる日が来る可能性はゼロではない。

▪️日越宇宙協力という静かな土台

ベトナムの宇宙開発は、日本との協力の歴史を持つ。共同プロジェクトが始動したのは2012年前後で、ベトナム国家宇宙センター(VNSC)と日本側の協力枠組みが始まり、ベトナム人技術者が日本で衛星の設計や製造に関わった。そして2013年には日本と協力した超小型衛星「PicoDragon」が打ち上げられた。このような地球観測衛星開発や人材育成の分野で、日越の技術交流は2026年現在も続いている。この信頼関係は、民間レベルの連携にも発展し得るだろう。たとえば北海道大樹町を拠点とするInterstellar Technologies。

創業に関わったのは堀江貴文氏だ。

もし将来、VinSpaceが衛星開発やデータ運用で強みを築き、日本側が打ち上げ技術で補完する形が生まれればどうだろう。日本で打ち上げ、ベトナムで運用し、ASEAN市場へ展開する。そんな分業モデルも、決して空想とは言い切れない。現時点で具体的提携はない。しかし、宇宙産業は「想像できること」から始まるのだ。

▪️ベトナムは「物語を現実にする国」

私はベトナムで働いていて、この国の意思決定の速さに何度も驚いてきた。
EV市場での挑戦も、最初は無謀だと言われた。だが挑戦は現実になった。宇宙もまた、最初は笑われるテーマかもしれない。だが国家が方向を示し、民間が資本を投じ、若い技術者が挑戦するならば――その距離は縮まる。

VinSpaceはまだロケットを持っていない。しかし「宇宙を語る資本」が生まれたこと自体が、ベトナムにとって一つの打ち上げなのだ。

宇宙は遠い。だが、地理と技術と物語が揃ったとき、その距離は思ったよりも近いのかもしれない。

▪️本記事の執筆者・ヨシヒロミウラは、
ベトナムおよび東南アジアを軸に、社会・経済・文化の変化についての考察を
個人サイト yoshihiromiura.comにて継続的に発信しています。

 

Profile

著者プロフィール
ヨシヒロミウラ

北海道出身。ベトナム在住。武蔵大学経済学部経営学科卒業(マーケティング)。日本とベトナムを行き来する食、教育、人材等のビジネスの現場に関わりながら、現在進行形のベトナム社会を主なフィールドとし、アジア都市の経済・制度・文化の相互作用を観察し、思考、日本語で記録している。
個人ブログ:yoshihiromiura.com
X:@ihiro_x

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