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パスタな国の人々

宮本さやか|イタリア

世界初。設備も売り物も全てグリーン&サステナデパート、トリノに登場。

Green Pea の建物正面。オープン前のプレス内覧会の日は雪。人類が汚してしまった自然をこれから浄化していく、象徴的なできごとと言われた(写真:著者撮影)

「From duty to beauty 義務から美しい楽しみへ」

そんなスローガンを掲げ、トリノにオープンした「Green Peaグリーン・ピー」は、建物も扱う商品も全てサステナブルでグリーンという、世界初のリテイルパークだ。オープン前にプレスからメールで送られてきたレリースには、1ページ目にいきなり「プリントアウトしないで読んで」と書かれいて、続くページには

「世界で起きた自然災害:1999年には19件、2019年には1,515件」

「世界で毎日1億バレルの石油が消費されている」

「現在 海洋プラスティックの量は1億6500万トン、2050年には海の魚1トンにつき3トン」

「過去5年間で、毎年平均4ミリ 世界中の海面が上昇している」

「近年起きているオーストラリア火災で5億匹の動物が死んだ」

「前世紀には、大気中の二酸化酸素濃度が過去2000万年に比べて45%増加した」

などなどと、地球温暖化の深刻さを現す事象が書き並べられている。世界の科学者の90%が地球温暖化はエマージェンシー事項であるとも。

そして「じゃあ、消費するのをやめるかい?」 と続き、いや、そうじゃない、今の時代、消費しないわけにはいかないじゃないか。だったら自然環境にリスペクトした消費スタイルに変えていくべきだ。でもそれは、堅苦しい義務感からだけじゃ、続かないし、一握りの意識が高い系環境保護主義者だけがやってもダメ、すべての地球人が考えを変えていかないとなんだ。だから「From duty to beauty 義務から美しい楽しみへ」。高級ブランドを買って自慢していた時代から、いかにグリーンでいかにサステナなものを持っているか、それが嬉しくてかっこいいこと、そういう時代に突入したというわけだ。

イタリアのトップ建築家4人がチームを組み、2年をかけて作り上げた総面積15,000㎡、5階の建物は、全面に木材が張り巡らされた最新のデザイン建築。「この木は、ただのデザインですか? それとも何か意味があるの?」 オープン直前に建築現場を案内してくれたCEOのフランチェスコ・ファリネテッィに聞くと、よくぞ聞いてくれました! と言わんばかりにこう答えた。

「グリーン・ピーの外壁も床も、全ての木は倒れ朽ちかけていたものを再利用しているんだ。1本も木を切ったりはしていない」

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ステンレスとガラスで作られた外壁の外側が、バイオリンの森の木材で覆われているが、内部に光は入る設計になっている(写真提供:@Green Pea)

外壁に使われている木材は、イタリア北東部、ヴェネト州ベッルーノ地方の森から運んできたものだという。その森は、ストラディバリウスなど、世界最高峰のバイオリンを作るのに最適のアカモミが伐採されることで知られていたが、2018年10月に起こった巨大嵐で41,491ヘクタールにも及ぶ森林の木々が倒れ、地元経済に大損害を与えた。中には樹齢200年にもなる名木も多かったという。その倒木を利用し、建物の外観に利用したというわけだ。環境に負荷をかけず、資源を再利用し、耐久性があること。まさにGreen Peaのプロジェクトにぴったりなストーリーだ。一方、建物内のフローリングは、ピエモンテ州の過疎の村などから、打ち捨てられた建物の建材を運びこみ利用している。新品の木材で作ったよりも、ずっと高級感のあるフローリングに仕上がっている。

館内で使用されるエネルギーは当然、最新型の地熱発電や太陽光電力、地下から吸い上げる水力などを利用し、極力環境に負荷をかけない最先端のシステムが導入されている。

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各階の入り口には、歩く振動でエネルギーを生み出すフロアシステムが導入されている。(写真:著者撮影)

建物内に入ると、地上階(1階)にはFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)が最新型電気自動車を展示販売する一方で、テレコム・イタリアが再生品のスマートフォンを販売する。そして自宅のエネルギー消費を、よりグリーンなタイプに変更するためのコンサルカウンターがあったり、石油溶剤を使わず環境に負荷をかけないクリーニング店があったり。

1階(日本でいう2階)はインテリアフロア。イタリアンデザインのカッコいい家具やシステムキッチンたちも、全てエコサスティナブル。その上、歩く振動でエネルギーを生み出すシステムや、建物に使う塗料自体が空気を浄化するものなども、実際にフロア内で使われ紹介されている。

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プレス内覧会にて。再生ダンボールの家具ショップで、左は「イータリー」の創立者で「グリーン・ピー」オーナーのオスカー・ファリネッティ氏。床のフローリングも廃材を利用している(写真:著者撮影)

2階はファッションフロア。もともと環境問題に積極的な「パタゴニア」「ティンバーランド」の他に、イタリア最高級カシミアブランドの「ドルモア」、トリノ生まれの「ボルボネーゼ」など高級ブランドも並ぶ。みんな何かしらが「エコ」で「サスティナブル」な商品作りをしている企業ばかりだ。海洋プラスチックを集めて洋服、バッグ、靴に作り変えるスペインのブランド「エコアルフ」もある。

3階は「ブルネロ・クチネリ」「ゼニヤ」「ヘルノ」のブティックがある。ダウンのイタリア2大ブランドのうちの「ヘルノ」であって、人気や価格では上をいく「モンクレール」ではないのは、どんなにおしゃれでも動物虐待をしてモノづくりをするブランドはペケである、という意思表示か。

そして、その場でテストをして自分の肌に合った化粧品を作ってくれるラボに、環境問題や自然についての資料が充実したブックショップ、レストラン、バールという構成だ。

最上階と屋上には「クリエイティブな退屈」をテーマに、プール、サウナ、カクテルラウンジなどがある(会員制)。ビルの最上部に突出したプールに浮かべば、向こうには雪をかぶったアルプスが見える。頭を空っぽにして、次世代のために地球を守るアイデアを閃かせよというわけ? 

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最上階の「クリエイティブな退屈(?)」のプール前にて、CEOのフランチェスコ・ファリネッティ氏。(写真:著者撮影)

さて、これを作ったのは、イタリアの上質な食品、食文化、生産者保護のため2007年にトリノにオープンした食のデパート「EATALY」。イータリーというと、日本では2008年に代官山にオープンしたが2014年に撤退。その後は百貨店などに入って続いてはいるものの、今一つパッとしたイメージがない。だが世界では14カ国43店舗(イタリア国内では14店舗)を持ち、成功街道今なお爆進中の大企業へと成長した。郷土の小さな生産者を守るため、というスローガンは、実は生産者たちをどんどん吸収合併し自らを巨大化させている、という批判もあるし、高級ブティックや高級デザイン家具、最新テクノロジーの環境システムばかりを揃えた「グリーン・ピー」では、金持ちしか環境保護に参加できないのでは? という疑問も湧いてくる。それでもなお、全人類が地球環境を考え、暮らし方、消費スタイルを変えていかなければならない今、すごいものができたことは間違いない。

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2007年にオープンしたイータリー1号店はすぐ隣のファリネッティ王国。
 

Profile

著者プロフィール
宮本さやか

1996年よりイタリア・トリノ在住フードライター・料理家。イタリアと日本の食を取り巻く情報や文化を、「普通の人」の視点から発信。ブログ「ピエモンテのしあわせマダミン2」でのコロナ現地ルポは大好評を博した。現在は同ブログにて「トリノよいとこ一度はおいで」など連載中。

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