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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

ロンドンで観た東京オリンピック2020

 英国で話題になった選手を挙げ始めたらきりがなくなるが、編み物上手な飛び込み選手として世界中で大人気になったトム・デイリーについて、やはり少しだけ触れておきたい。11歳から国際大会に出場していたトムは、子どもの頃から全国的な有名人だった。学校でのいじめ、父親の死、カミングアウトの苦悩などもつぶさに報道されてしまった彼の成長を、甥っ子を見るような気持ちで温かく見守ってきた人も多いはずだ。そのトムが4度めのオリンピック出場で悲願の金メダルを獲得したのだから、全国のおじちゃんおばちゃんは大喜び。LGBTQ+の金メダリストが誕生したことも、まさに東京オリンピックの方針である「ダイバーシティー」にぴったりだ。ロックダウンの時期に編み物という楽しみと才能にめぐりあい、同性婚をした夫との間に子どもも迎えて充実しているのか、今回のオリンピックで久しぶりに見たトムの幸せそうなこと。表彰台で見せた涙の美しかったこと(編み物作品や少年時代のトムも見られるインスタグラムYouTubeも人気)。

トムデイリー - 1.jpeg

閉会式翌日、8月9日付のThe Times紙の紙面より。お堅いタイムズ紙が「オリンピック選手と同じセーターを編もう(初心者編)」なんていう記事を真剣に載せているのもオリンピック効果かもしれない。期間中、彼のファーストネームがトーマスになっているのを見たけれど、それはおそらく正式な名前で、英国ではずっと愛称の「トム」で親しまれている。筆者撮影

 閉会式を観た人も周りに少なかったが、マスコミではテレビ用に準備されたCGという説明付きで、グランドからゆらゆら立ち上った光で描かれた五輪を大きく取り上げていた。日本ではあまり評判がよくなかったらしい東京音頭だが、在外邦人の間ではちょっとした人気だった。盆踊り、浴衣、夏祭り、と子どもの頃をじーんと懐かしく思い出したというのだ(わたしもです)。本当なら夏には里帰りして、日本の家族と一緒にオリンピックを観ていたはずの友人も多い。ついでに言うと、テレビに映る東京の景色や、画面の右端に並ぶ英国と日本ふたつの時間を見るのも、わたしたちのひそかな楽しみだった。

オリンピック期間中、いろいろな形で日本が紹介されていたのは嬉しかった。これはロンドンの主要駅のひとつ、キングスクロス駅周辺で毎週末開かれていたShotengai(商店街)というイベントの様子。再開発されたおしゃれな倉庫街の屋台で日本の食べもの(売り切れ続出!)や工芸品が売られて好評だった。主催者のインスタグラムより

閉会式が終わった後のマスコミや友人たちの反応をまとめると、こんなに難しい時に無事に終わってよかった、日本はよくやってくれた、ということになるだろう。「当初『不幸なオリンピック』、『求められていないオリンピック』と言われたにもかかわらず」という枕詞には複雑な気持ちになるけれど。BBCの記者の「がらんとした無観客の開会式の外では反対デモが行われていた。巨額を投じた晴れの舞台から地元の人が締め出されるという嘘のような悲しい光景は、パンデミック時代のオリンピックを強烈に象徴していた」(筆者抄訳)という言葉が胸に響いた。

東京オリンピックを開催してよかったのかはわからない。コロナ禍では何でも正解がわかりにくいものだ。ただ難しい条件の中、表に出る出ないにかかわらず、多くの人の力が大会を支えたことは確かなのだろう。まずは無事に閉会したことに感謝。お疲れさまでした、東京。

 

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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