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イタリアの緑のこころ

石井直子|イタリア

大天使ミカエル信仰、プーリア聖地とサンタンジェロ城

プーリア州のサン・ミケーレ聖所記念堂 2014/5/2 photo: Naoko Ishii

大天使ミカエル信仰と5世紀末プーリアでの出現

 9月29日はカトリック教で、大天使ミカエルを記念する祝祭日です。大天使ミカエルに捧げられた聖堂は、フランスのモン・サン・ミシェルが有名ですが、708年に彼の地に聖堂を建てるようにと夢で司教がお告げを受ける約200年前に、大天使ミカエルが3度現れて、中世前期からすでに大勢の巡礼者が訪れていた聖地が南イタリアのプーリア州にあります。ガルガーノ半島のサン・ミケーレ聖所記念堂です。

 聖ミカエルを、フランス語ではサン・ミシェル、イタリア語ではサン・ミケーレと言い、「聖ミカエルの山」を意味するモン・サン・ミシェルに対し、この記念堂がある町、モンテ・サンタンジェロの名は、「聖天使の山」という意味です。

 言い伝えによると、490年に、家畜小屋に戻らぬ雄牛を探しに行った男が、その牛が険しい山の頂付近の洞窟前にいるのに立腹し、毒を塗った矢を放つと、一陣の風で戻った矢が、放った男自身を射るというできごとがあり、困惑した人々に相談を受けた司教が神に問うと、司教の前に大天使聖ミカエルが現れて、自分がこの地と住む人々を守ることに決めて、それを示すために矢の奇跡を起こしたのだと語ったということです。

 さらに、492年には、ガルガーノ半島が戦争で襲撃を受けようとしたとき、司教の前に大天使が現れて、翌朝、そのときの約束どおりに住民を守って勝利に導き、493年にはまた聖ミカエルが現れ、すでに自ら聖堂を築いたこの地を我が庇護のもとに訪ねるようにと告げるなど、言い伝えでは、5世紀末に、大天使聖ミカエルが3度出現したとされたとされています。

 4世紀以降、大天使ミカエルの信仰は、エジプトや小アジア、東ローマ帝国に広がり、西洋でも後に、天使軍団を率いる神の戦士として、崇拝されるようになります。ガルガーノ半島におけるミカエル信仰の起源は、先の言い伝えによると5世紀末なのですが、キリスト教が半島に普及した5世紀半ばであった可能性もあるようです。

590年、大天使ローマのペストを鎮静

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ローマ、サンタンジェロ城 2016/6/26 photo: Naoko Ishii

 聖ミカエルはまた、590年にローマにも出現したと言われています。蔓延していたペストの鎮静を祈って、教皇グレゴリウス1世が聖職者たちと民衆と共にローマの町を行進し、サン・ピエートロが近づき、要塞化されたハドリアヌス帝廟へと向かう橋に着いたときのことです。にわかに天使たちが天から降りてきて歌を歌い、居並ぶ人々の上空に漂って、一行が携えていた聖母マリアの絵を取り囲み、教皇が空を見上げると、城塞の上に武装した大天使ミカエルがいて、剣の血をぬぐって鞘に収め、そうしてペストが終息したと言うのです。城塞が、サンタンジェロ城、「聖天使の城」と呼ばれるようになったのはそのためで、サンタンジェロ城の上には今も、剣を鞘に収めようとしている大天使ミカエルの像があります。

 大天使聖ミカエルの信仰とその聖地への巡礼が、ヨーロッパで古来盛んに行われてきたことは知っていました。2012年4月にはわたしの夫も友人たちと共に、モンテ・サンタンジェロのサン・ミケーレ聖所記念堂まで、歩いて巡礼の旅をしましたし、歩いてではありませんが、わたしも信仰深い夫たちと共に、フランスのモン・サン・ミシェルを訪ねました。

 6世紀にイタリアに侵入し、イタリア北部・中部の大半を支配するランゴバルド王国を築いたランゴバルド人は、キリスト教への改宗後も自らの伝統を失わず、戦の神、ウォーダンへの信仰が、神の戦士ミカエルへの信仰として生き続けたのだと、『I Longobardi』(ランゴバルド人)に書かれています。同書によると、また、7世紀にはモンテ・サンタンジェロがランゴバルド王国の聖地となって、聖ミケーレ信仰が西洋全域に普及し、サン・ミケーレ聖所記念堂は、モン・サン・ミシェルをはじめ、以後全ヨーロッパで築かれたすべての聖堂の原型となったそうです。

 大天使ミカエルは、警官の守護聖人であるため、聖ミカエルの日だった昨日、ペルージャの大聖堂では、大司教が警官たちへのミサを行いました。また、4年前にいっしょにモン・サン・ミシェルを訪れた友人たちは、大天使ミカエルゆかりの地を旅行中で、ペルージャのサン・ミケーレ・アルカンジェロ教会を訪ねる予定だと言っていました。

【参考文献】

・『Monte Sant'Angelo del Gargano. Storia. Arte. Cultura』, Claudio Grenzi Editore.

・『I Longobardi. Origini mitiche, storia e archeologia di un popolo millenario』, editoriale GRAFO.

【参照ウェブページ】

・Vatican News - Quando san Michele arcangelo apparve a Roma e fermò la peste

 https://www.vaticannews.va/it/mondo/news/2020-03/quando-san-michele-arcangelo-apparve-a-roma-e-fermo-la-peste.html

 

Profile

著者プロフィール
石井直子

イタリア、ペルージャ在住の日本語教師・通訳。山や湖など自然に親しみ、歩くのが好きです。高校国語教師の職を辞し、イタリアに語学留学。イタリアの大学と大学院で、外国語としてのイタリア語教育法を専攻し卒業。現在は日本語を教えるほか、商談や観光などの通訳、イタリア語の授業、記事の執筆などの仕事もしています。

ブログ:イタリア写真草子 Fotoblog da Perugia

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