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タックス・法律の視点から見る今のアメリカ

秦 正彦(Max Hata)|アメリカ

天才パン職人による「Maison Kayser」破産法申請(バゲットやブリオッシュどうする?)

Maison KayserがCloseしてしまって、美味しいパンを求めてSOHOとかWest Villageまで足を伸ばす機会が増えた。(写真credit: JJFarquitectos)

Maison Kayserはオフィシャル・ウェブサイトが言うところの「50年に一度の天才パン職人と称されるエリック・カイザーによる世界的ブーランジェリー」。簡単に言うとパン屋さんだ。パリのモンジュ通りを発祥の地とし、1800年以前に一般的だった天然酵母を使った製パン法で味わい深いパンをNYCを含む世界の食卓に届けてくれていた。日本にも結構な数の店舗があるからお馴染みなはず。確かにパンは美味しいよね。

マンハッタン15店舗、ブルックリン1店舗でNYC合計16店舗、米国には他にも数件あったはずだ。店舗は「天才職人」レシピのパンを販売するベーカリーに、簡単な軽食・エスプレッソとかをIn-Diningできるカフェが併設されてた。To-Goやデリバリーもあって、テレワークになる前はよくオフィスのランチミーティングとかでみんなでオーダーしたもんだ。Teams以外で本当に生で人間が集まってミーティングが普通にできてた時代の話し。

近所で手軽に美味しいブリオッシュ

エスプレッソとかカフェは特筆に値いするほどじゃなかったと思うけど、パンに関してはSOHOとかまで足を運んで店の前で並んだりしないでもミッドタウンで、オフィスの帰りとかに立ち寄って手軽においしいバゲットやブリオッシュを買うことができて便利だった。狭いミッドタウンだけど、結構あちこちに店舗があったし。発祥の地名にちなんで以前バゲットは「バゲット・モンジュ」とかファンシーな名前で呼ばれてたけど、普通のアメリカ人にとっては「モンジュって何?」みたいな混乱を招いたのか(?)、いつの間にかただのバゲットになってた。

小さい頃、母がアートコーヒーって東急沿線や駅構内にあったパン屋で、よくブリオッシュを買ってきてくれた関係で、大人になってもブリオッシュが無性に食べたくなる日があって、そんなときにはMaison Kayserに立ち寄ったものだ。

Maison Kayser.jpeg

Maison Kayserはロックダウン時に真っ先に店を閉め、その後もリオープンの気配ゼロ。様子がおかしいと思っていたら9月10日に破産法申請。Lexと52th Streetの辺にあるMaison Kayserの9月初旬の様子。「As soon as possibleに再開します」っていう貼紙もそのまま。(写真 by Max Hata)

ロックダウンで真っ先に店舗クローズ

そんなMaison Kayserだけど、コロナでロックダウンした瞬間に、他のリテールに先駆けいち早くクローズしてしまった。ロックダウンから何日か経った日、Grand Centralの近くに「うちも今日の午後2時までで、その後はクローズします」みたいな店舗があって、慌てて数日分のブリオッシュを買いだめしたのを覚えてる。その時、チョッとおかしいなと思ったのは、In-Diningのカフェを閉鎖するのは分かるんだけど、ベーカリーはおそらくその気になれば事業継続できたはずで、なんであんなに慌ててクローズするんだろうって点。他のベーカリーも多くはしばらくそのままオペレーションしてた。Maison Kayserが真っ先に「待ってました」とばかりに敢えてクローズした点、なんか釈然としないものがあった。その後も徐々に経済がリオープンして他のお店が少しずつ再開していく過程でも、オープンの気配は一切感じられなかった。「Further Noticeまでクローズ」で「近々に皆様に美味しいパンをお届けできる日が来ることを願っています」系の張り紙が各店舗に表示されてはいるものの、ウィンドウから中を見ると3月以降、メンテしてる様子もなく荒れ放題な感じで下手するとテナントが夜逃げした後みたいな雰囲気まで醸し出してた。

個人経営っぽいベーカリーが代わりに活躍

そんな状況なんで、仕方なく美味しいパンを求めてミッドタウンから徐々に南下して、West VillageとかSOHO辺りまで買い物に出かけるはめに。元祖クローナッツのDominique AnselのWest Villageの方の店でDKA三昧になったり、多くの個人がやってるようないい感じのSweet、ドーナッツ、クロワッサン、バゲット、とかいろいろと試してみた。ブリオッシュはこれというのが見つかってない。しばらく前にやってたみたいに近所のフランス人経営のパン屋に特注して焼いてもらうしかないかも。

Sweet Rehab.jpeg

SOHOとか南まで足を伸ばせば、美味しいベーカリーとかSweetのお店はたくさんある。写真はSweet Rehab。中央の「お立ち台」みたいな箱の上にディスプレイされてるタルトをオーダーするとその場で手で作ってくれる。クッキーとかも美味しい。この手の個人商店っぽいところがResilientに頑張ってる。(写真 by Max Hata)

リオープンすることなく破産法申請

で、Maison Kayserだけど、様子がおかしいけどもしかして永遠にクローズ?、って思ってたらやっぱり9月10日に破産法申請。多くの小売やサービス業が州政府による長期ロックダウン政策の犠牲となってるけど、Maison Kayserって比較的大手だからチョッと意外だった。破産法申請はPublic Informationなので、さっそくPACERにログインして、Maison Kayserが手続きを申請したと報道されているSouthern District of New YorkのBankruptcy Courtの書類をサーチしてみた。

PACERに出てきた破産法申請にザっと目を通すと、各店舗が各々別のLLCで運営されてたのが分かる。Legal Protection目的だからタックス上はもちろんDREのはず、ってついタックスの話しになってゴメン。で、それらのLLCを束ねるアンブレラEntityは「Cosmoledo, LLC」っていうところで、そこが破産法申請代表者。このCosmoledo, LLCも実はMoussechoux, Inc.っていう法人の100%所有と記載されてて、この親会社のMoussechoux, Inc.が主たる債権者で、唯一のSecured Senior Lenderということ。Secured Seniorローンは70Mドルとも言われている。社名がみんなヨーロッパチック。

資産は10M~50Mドルで、債務総額は50M~100Mドルって開示されてるんで50Mドル前後債務超過。リストされている無担保主要債権者は金融機関、各店舗の家主さんとみられる主体、店舗用品や包装資材のベンダーみたいだ。いつも「Bag要る?」って聞かれて「お願いしま~す」って言ってもらったあの袋たちの卸業者も含まれてるんだろう。ミッドタウンの店舗で働いてて、いつもPullman Loaf出してくれたお姉さんとかどうしてるんだろうか。800人の従業員が解雇されたって報道されている。何となくコロナになる前から財務状況あんまり芳しくなさそうだね。その前から店舗拡大し過ぎてるとか報道されてて、DCの店舗は早々に閉鎖したりしてたもんね。

キプロスにMaison KayserのIP所有会社?

債権者の中に「Maison Eric Kayser Medatlantique Limited」ってキプロスにある会社があって、未払いロイヤルティがリストアップされている。しかも「D」の箱にチェックが付いているので「Disputed」、すなわち債務の存在または残高に関して何らかの係争があるみたい。

このキプロスの会社、レシピとかブランド名を所有してるIP所有法人なんだろうけど、なんか単にパン焼いてるだけでなくいろいろ考えてやってそう。やるね。天才肌のパン焼き職人はタックスプランニングにも長けてるのかもね。キプロスって、以前はロシアや東欧の金持ちやアングラマネーを狙ったタックスヘイブンだったけど、国際情報交換規定に合意したり、法人税率を12.5%に上げたりして(上げて12.5%っていうのが羨ましい)、OECDから「あなたはもうタックスヘイブンではありません」ってお墨付きをもらうに至っている。OECDって大本はヨーロッパ復興のための組織だったけど、ここ何年もタックスの世界警察みたいになってきて、主権国家のタックスポリシーを浸食気味。実はアメリカ・キプロスの租税条約に規定されるLOB条項は特別で、合法的に変わった使い道があり得るけど、そんなことも関係してるのかな、ってオタクな話でゴメン。

Chapter 11で復活?

破産法申請から分かるグッドニュースのひとつは、少なくとも申請がChapter 11なこと。資産を売却してそこから可能な限りTrusteeに債務返済して会社を清算するChapter 7と異なり、Chapter 11っていうのは、債権者から借金棒引きや優先株式に交換とかの譲歩を取り付け、新規にオペレーションを再スタートするのが原則。ちなみに破産法は「Title 11」だけど、その中に「Chapter 7、9、11、13」とかがあるんで、Title 11を見てChapter 11って早合点しないようにね。

アメリカの連邦条文法は、議会で可決する際はPublic Lawとして会期の番号とかで整理されてるけど、法律が成立するとCodifyという過程を通じてTitle番号で管理される各関連法規集に再整理される。例えば、僕が日夜格闘している連邦税法の「Internal Revenue Code」はTitle 26。このTitleの下にSub-Title、Chapter、Subchapter、云々でどんどん細分化されていく。アメリカの法律のうちCommon Lawベースじゃない条文法、例えば税法、刑法、証券法とか、を読解する際、各Titleの構成を徹底的に頭に叩き込んで解析するのが重要。M&Aやクロスボーダー課税のルールには特例に次ぐ特例で、そのSectionがどのChapterに属しているのか、ってよ~く考えて読解しないととんでもない間違いに繋がりかねない。この謎解き+プラニングは実はDeepで一生掛かってもマスターできない究極のCase Building。傍目にはつまんなそう?かもね。

Maison Kayserとして何店リオープンするか不明

で、Chapter 11なのでReorganizationして原則オペレーション再開っていうことになるはずなんだけど、具体的には「Aurify Brands」っていう会社が、親会社で唯一のSecured Senior債権者のMoussechoux, Inc.から債権を安価で買い取って、破産法のプロテクション下で、事業資産を買い取る計画らしい。ということは採算のよさそうな店舗だけでもそのうちリオープンして、またブリオッシュ買って帰れるのかな。実はこのAufiry Brandsって会社、NY近辺を中心に複数のDunkin Donuts、Baskin-Robbins, Five Guysとかの店舗を展開しているし、最近Maison Kayserと同じように破産手続きを通じて同じくヨーロッパ発祥、こちらはベルギーだけど、のパン屋さんチェーンLe Pain Quotidienの事業も買い取っている。Le Pain Quotidienは米国全土に多くの店があってそのままオペレーションしてるから、Maison Kayserも期待できるかもね。Le PainはカリフォルニアのMarina del ReyにもあってGelsonと同じ駐車場なんで買い物ついでに立ち寄れて便利なんでそのまま存続してくれてありがたい。

Aufiry Brands傘下でMaison Kayserのオペレーション続けるには、Maison Kayserのブランドや、天才パン職人開発のレシピを使用するため、キプロスのIP所有会社にロイヤルティ払わないといけないかも。ロイヤルティで揉めてるって書いてあったから、使用できなくなったり、料率に合意できなかったりして、結局別のパン屋さんにならないといいけどね。

 

Profile

著者プロフィール
秦 正彦(Max Hata)

東京都出身・米国(New York City・Marina del Rey)在住。プライベートセクター勤務の後、英国、香港、米国にて公認会計士、米国ではさらに弁護士の資格を取り、30年以上に亘り国際税務コンサルティングに従事。Deloitte LLPパートナーを経て2008年9月よりErnst & Young LLP日本企業部税務サービスグローバル・米州リーダー。セミナー、記事投稿多数。10年以上に亘りブログで米国税法をDeepかつオタクに解説。リンクは「https://ustax-by-max.blogspot.com/2020/08/1.html

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