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サッカーを食べ、サッカーを飲み、サッカーと寝る国より

古庄亨|ブラジル

努力で埋めがたいブラジルの教育格差②

(Brazil High Resolution Rich Concept_iStock)

◉自らの教育経験からくる子供に対しての考え方の違い

前回に引き続き、教育の話となる。

高所得者層も低所得者層、貧困層も子供への愛情は変わらない。
そこに関しては疑う余地はない。誰しも自分の子供はかわいい。
ただし、人生の考え方、子供への環境(経験)の提供という面では、両者は180度異なる。
一方は、子供に一番重要なのは教育だと信じて疑わず、熱心に教育の機会を提供する。
一方は、子供はある程度になると働いてお金を稼いでくる存在だと考えている。
その為、働ける年齢になると(法律上ではなく、計算や管理、会話ができる年齢)働きに出させる。
この両者の違いは一体何かというと、教育(勉強)をしてきた事でその恩恵を享受できたかどうかの違いにある。

教育を受けてきた事で、それが収入に反映されてきた層は、自分の子供にも教育を与え、更に良い生活を送れる様に考える。
未来を切り開く、夢を叶えるのは子供の時の勉強が肝心だと、両親共働きの状態で多少家計が苦しくても、子供の教育にお金をしっかりと充てる。

一方の層は、学校に行っても家計の足しにならないからと、子供であっても何かしら働かせ、家業の仕事が忙しければ仕事を優先させる。
もしかすると両親は教育が大事だという事には気がついているのかもしれないが、それよりも目先の食費の為にとならざるを得ない現実もあるのだろう。

ブラジルの公立の初等教育のレベルはそれほど高くない。簡単な掛け算、割り算ができない子も多い。その高くないレベルの初等教育でさえも継続的に受けなかった子供たちの将来が、どんなものになるかは容易に想像できるだろう。


◉ブラジリアンドリーム
一般的に、ブラジリアンドリームと聞いて真っ先に思い浮かべるのは、サッカー選手としての成功である。
トップリーグで活躍すれば、何千万という給料が貰え、平均でも1千万円程度の年収にはなる。
郊外の地価を考えると親、兄弟だけでなく、親戚も含めてみんなを養っていける。


IMG_8311のコピー.JPG(筆者撮影)

サッカー選手以外で大金を稼ぐ事ができるのは、ミュージシャンや芸能人となる。
この辺りは日本も他の国も変わらないかもしれない。

そして、どこまで本当なのか定かではないが、麻薬密売人も高収入と言われている。
勿論、合法ではないしリスクしかないのではあるが、真面目に働いても低収入、現在仕事口の無い状態であれば、食べる為に悪事に手を染めざるを得ない部分も全く理解できない訳ではない。
そして犯罪が多いここブラジルでは、常に刑務所が服役囚で溢れている。その為に軽微の犯罪や初犯の場合は、予定より早く出てくる場合が多い。信じられない事に世帯主が服役中は家族に生活費が支給されるのだ。極端な話、仕事が無い場合、悪事を働いて服役した方が自分も食にありつけ、家族を養う事ができる。こんな制度も犯罪が起きてしまう一因なのかもしれない。

◉サッカー選手は実は風当たりが厳しい?

話をサッカー選手に戻そう。

華々しく誰もが憧れるプロサッカー選手。さぞ人気もあるのだろう。
だが娘が結婚相手として連れてきた男性がプロサッカー選手だった場合、敬遠される事もあるのだとか。
理由は収入の安定性と引退後の仕事。
ご存知の通り、プロ選手はいつクビになるか分からない職業。来年、いや数ヶ月先の事さえ全く読めない。
引退後も解説者や強豪クラブの指導者になる道は殆どない。(ポジションが埋まっていて空きが出ない)。
ここブラジルにはそこら中に元プロサッカー選手がいるのだ。


仮に別の仕事をするにしてもサッカーだけで育ってきた選手であれば、次の仕事ですぐに成果(収入)を出す事は難しい。
短期的には高額を稼いでいても、将来的には苦労するのが目に見えている。大事な娘をそんな男性にやれないというのも頷ける。

誰よりもサッカーを愛し、熱狂的なサッカーファンが多い国。
サッカーと共に人生を歩む人間が多いからこそ、サッカーを嫌うアンチサッカー派も多数存在する現実。

正確にはサッカーというよりサポターやスタジアム観戦に対しての嫌悪感だろうか。
特に高い教育があり、高収入を得ている層にはかなりの割合で存在する。
この方々はサポーターの暴動やサッカー選手やクラブの不祥事に辟易しているのだ。
実は、
筆者も商談や会議では初対面のブラジル人、特に役職の高い人と話す時、相手がサッカーの話をしてこない限りはこちからは触れない様にしている。元プロ選手だという事も自分からはしない。

街中の人や同年代は最初にサッカーの話をして意気投合する事は沢山ある。これは本当にそうですぐに仲良くなれる。
ただし、場面や場所、人によって考える必要がいるのだ。
下手な事を言って、相手のイメージで毛嫌いされるのを防ぐ、ある意味ビジネス上のリスク管理である。


WV用_IMG_5175.JPG

(筆者撮影)


◉少しでも階層をあげる為に

低所得者層や貧困層の中でも教育の大切さを理解している人々もいる。

教育の大事さに気づき、今この状態を何とか変えようと努力するのだ。
個人でというより、家族総出でといった方が正しいだろう。

地方に家族を残して、父親や長男や長女が都会へ上京。
肉体労働や危険な仕事、夜の仕事で身を粉にして働き、家族の生活費と弟や妹の学費を稼ぎ、仕送りとして送る。

仕送りを貰った弟や妹は学校で勉学に励み、何とか都会の大学に入り良い企業に就職する。
そうして高い収入を得て、高い階層のグループと付き合い結婚する。
子供を出産後は教育にお金を掛け、子供により高いチャンスを掴ませる。
その間も実家にはせっせと仕送りを送る。
その頃には、父親、長男や長女は重労働や危険な仕事から離れ、実家に戻り地元で可能な職につく。
子供達、兄弟達からの仕送りもあるので、ある程度の労働と収入を得てのんびりと暮らす。
そんな家族ぐるみ、世代を超えた階層越えの実例もある。


少し話がそれるが、我々日本人の先人もそうして階層を上げてきたのだ。
ほぼ奴隷の様な形で入植された方々が、この地で言葉にできない苦労と努力を重ねてこられ、教育でも社会でも成功されてきたからこそ、筆者を始め日本人の地位はブラジル国内で驚くほど高い。
日本人というだけで優遇される事もあるし、好意的な対応をされる事が非常に多い。
金銭的にも社会的にも認められる事はステータスではなく、自分や家族、同胞が生きやすくなる為に大事な事なのだ。


ブラジルの東大と言われる、サンパウロ大学(国立)にも沢山の日系人が在籍しており、あまりにも優秀で入学者数が多い為、ブラジル人が試験に合格できなくなるから日系人枠を作って定員を決めようという議論になったくらいだ。日系人子弟の勉強意欲と所属学校の日本語教育、文化への取り組みや想いは、今の日本人が忘れがちだと言われる、祖国や日本文化、日本人としての誇りや敬愛を強く感じる。

前述のブラジリアンドリームで触れたサッカー選手として成功するパターン。
日系人でブラジル国内リーグで活躍するトップ選手はほぼいない。
まだブラジルを良く知らなかった頃は、やはり日本人にとってブラジルサッカーの壁は高い、すなわち日本人とルーツが同じ日系人にとっても同じ様に壁が高いのだと感じていた。
そうなると身体能力か血の問題で、ブラジルで日本人が活躍するのは無理なのかとさえ思っていた。

だが、内情が分かってくると、この状況は、進路選択の過程の結果だという事が見えてくる。

サッカー選手として結果を出す一か八かのギャンブルでなくても、ある程度努力すれば結果が出てくる教育をしっかり受け、高収入、高待遇の仕事につく方がより人生を楽しむ事ができると判断しているのだ。

サッカーはプロでなくとも楽しむ事はできる。自分がプレーする限りずっと。
そう話す彼らは毎週末、サッカーの試合に出掛けていく。


WV用_iStock-1079995834.jpg
(Engineering team concept_iStock)

◉好き、夢と進路の関係

筆者がフットサル選手として所属していたリオ・デ・ジャネイロのチームの下部組織の子達と話した時の事である。

ブラジルのクラブでは小さい頃はフットサルからスタートさせる事が多い。
小さなスペースで相手からプレシャーがある中で沢山ボールに触れさせ、技術や判断力を磨く為だ。
その後、サッカーも並行してプレーする様になり、選手としての適性を見ていく。
中学校卒業時くらいになると、サッカーをプレーしていくのか、フットサルをしていくか選択をする様になる。
皆んなはどちらを選ぶのと聞いたら、お金が稼げる方と答える子が多かった。
サッカーの方が好き、フットサルの方が好きと、各自好みはある。だが最終進路決定は自分の好みではなく、稼げる方なのだ。より多くの収入を得る業種やチーム(会社)を選ぶ事は至って普通の事である。
日本の指導現場にいた時は、サッカー選手になる、フットサル選手になると限定している子が多かった。
中にはサッカー選手として、Jクラブの下部組織にいながらもJリーグへは行かず、フットサルをやりたいからとFリーグを目指している子もいた。その選択を否定する訳では無いし、どちらが良いとか悪いではない。そうではなく好きという感情や夢、希望で選択するのか、収入で進路選択するのかの優先順位が異なるという事なのだ。国内の経済状況や育ってきた環境が両国の子供達の考え方の違いとして出てくるのだろうか。


誰もが大事だと感じているブラジルの教育(特に初等教育)。
皆口々に改革が必要だ、政府は見て見ぬ振りをしていると叫ぶ。
そんな彼らも何をどうすれば良いかは分からないとは感じている。
混血や移民、人種の坩堝の国。
この問題が解決した時、そのポテンシャルが一気に花を開くのだろう。

知れば知るほど、知らない事ばかりのブラジル。
日々、新しい発見の連続である。

 

Profile

著者プロフィール
古庄亨

ブラジル・サンパウロ在住。日本・ブラジル・タイの3ヶ国で、2010年までフットサル選手としてプレー。2011年より5年間、都内スポーツマネージメント会社勤務。2016年ブラジルに渡り翌年現地にて起業。サッカーを中心にスポーツ・教育関連事業で活動中。

Webサイト: アレグリアスポーツアカデミー・サンパウロ

Twitter: @toru_furusho

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