コラム

なぜ「ボルトン回顧録」は好意的に評価されないのか

2020年06月29日(月)15時00分

ジョン・ボルトンの回顧録が反響を呼んでいるが...... REUTERS/Kevin Lamarque

<ジョン・ボルトン回顧録が刊行され反響を呼んでいる。しかし、ボルトン氏の価値を一方的に落とすだけの結果しか生み出さず、その影響は限定的に留まるものと思う。その理由は......>

ジョン・ボルトン回顧録(The Room Where It Happened: A White House Memoir)が発売されたことでメディア上で反響を呼んでいるようだ。

たしかに、トランプ大統領は元より、米国要人や海外首脳の発言まで網羅した同書は資料として興味深いものがある。しかし、筆者は同書の出版はボルトン氏の価値を一方的に落とすだけの結果しか生み出さず、その影響は限定的に留まるものと思う。

なぜなら、米国において外交・安全保障の機密を事実上開示することは極めて売国的な行為だからだ。そして、その対価としてボルトン氏が本書出版によって巨額の報酬を受け取る行為は、共和党・民主党問わず顰蹙を買っている。彼の盟友であるネオコン系の議員らもコメントを避けている現状だ。

本来であれば、トランプ大統領の政敵である民主党陣営はボルトン氏の書籍内容を積極的に引用して政権叩きに利用したいところだろう。だが、民主党の連邦議員等からボルトンの回顧録は全く共感を得られていない。ボルトン氏が昨年のトランプ大統領のウクライナ疑惑を巡る弾劾の際に議会証言をしなかったにも関わらず、同書の中でトランプ大統領の疑惑を認める記述をしているからだ。

何より、筆者は同書の内容はまともな人間が積極的に取り上げにくい性質を持っていると感じた。個々の事実関係については、トランプ大統領の発言等の興味深い記述はあるものの、同書の内容は孤立無援な状態で「大企業に乗り込んだ教条主義的なコンサル」の愚痴のようなものに過ぎないと感じたからだ。つまり、実務能力がない失敗した人物が他人に責任を転嫁しているだけの本なのだ。

コミュニケーション能力を著しく欠いていたボルトン氏

ボルトン氏はその原理主義的な傾向から連邦上院からの承認が必要な政府要職に就任することは極めて困難とみなされていた人物だ。そのため、トランプ政権では国家安全保障担当補佐官という議会承認不要のポジションに就任している。

ただし、ボルトン氏が就いたポジションは他の外交安全保障の閣僚らの要職と異なり、十分に実務をこなすための組織があるわけではない。ボルトンは一部の職員についての人事権は与えられたものの、それは各政府機関への横やり的な介入を意味しており、その権限の行使には必然的に限界が伴う。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独当局、ディープシークをアプリストアから排除へ デ

ビジネス

アングル:株価急騰、売り方の悲鳴と出遅れ組の焦り 

ワールド

焦点:ウクライナ、対ロシア戦の一環でアフリカ諸国に

ビジネス

ECB、インフレ目標達成へ=デギンドス副総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 3
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事実...ただの迷子ですら勝手に海外の養子に
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 6
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 10
    単なる「スシ・ビール」を超えた...「賛否分かれる」…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story