コラム

ニューハンプシャー州の民主党大会で見えたポジティブな未来

2019年09月10日(火)20時15分

この失敗から学んだのだろう。民主党は、前回の大統領選の傷を深くするより、傷を癒やすことを選んだようだ。今回の予備選では、大部分の候補が、集会などで「最終的に誰が勝っても、私は全力でその候補を応援する」と公言している。候補らの姿勢が支持者たちにも影響しているのか、現時点では有権者たちの間に前回のような不信感や敵意はみられない。それよりも、気候変動や医療制度、人種差別、銃による大量殺人など切迫した問題に対して団結して戦うべきだという仲間意識が強まっているようだ。会場の前での支持者の応援も、日本の大学祭のようにフレンドリーな応援合戦のみだった。

Welcome to the NH Democratic Party Convention Sept. 08, 2019 from yukari watanabe on Vimeo.

大会での「民主党はトランプ大統領から国や世界を守るために団結するべきである」という雰囲気を最初に盛り上げたのが、ジョー・バイデンに続いて2番目にスピーチした大統領候補のコリー・ブッカーだった。彼が「今は、アメリカのモラルが試されている重要な時である。民主党員は気をつけなければならない。私は誰が候補になっても構わない。だが、ほかの民主党員を敵に回し、我々を引き裂く民主党員を許容することはできない」と情熱的に語ると、会場は拍手と歓声に包まれ、参加者の多くはスタンディングオベーションをした。

Cory Booker moment - NH Democratic Party Convention from yukari watanabe on Vimeo.

ベトナム戦争に従軍した退役軍人で写真家のジョン・ポルトラック氏は、ニューハンプシャー州民主党の代議員でもある。現時点ではエリザベス・ウォーレン、カマラ・ハリスといった候補に好感を抱いているが、たぶん投票の時点までは支持する候補を決めないだろうと語った。しかし、いったん民主党の指名候補が決まったら必ずその人物に投票する、と言う。「(民主党指名候補なら)それがハムサンドイッチであっても票を投じる」と冗談まじりに強調していた。

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指名候補が決まったら「それがハムサンドイッチでも投票する」と語ったニューハンプシャー州代議員のジョン・ポルトラック氏(筆者撮影)

8月末に予備選から降りたジェイ・インスレーの5月の選挙イベントで出会った18歳と20歳の男性は、3カ月前とは異なり、フリアン・カストロのTシャツを着ていた。多くの候補の話を聞いた結果、カストロを支援することに決めたというが、ピート・ブーテジェッジとアンドリュー・ヤングも応援している。できれば高齢者が指名候補になってほしくはないが、それでもトランプを阻止するために投票すると言う。

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ジェイ・インスレーのイベントのときにもビデオ取材に応えてくれた若者たち。多くの候補のイベントに足を運び、そのうえでフリアン・カストロの支持を決めた(筆者撮影)

エリザベス・ウォーレン支持の女子大生2人組も、「できればジョー・バイデンにはなって欲しくない」と言いつつも、「(トランプを止めるために)指名候補に投票する」と語った。

年齢やジェンダーに関わらず、この大会で話を聞いた多くの人々が、複数の候補に好感を抱いており、まだ決めていないか、決めていても他の候補を応援するつもりでいた。

ステージの上に立った候補へのブーイングはサンダースが登場したときに少数が行っただけで、ほかにはまったく耳にしなかった。また、支援する候補のTシャツを着ていても、別の候補のスピーチに拍手を惜しまない。これは、2016年の民主党大会の雰囲気とはまったく異なる。

今回のニューハンプシャー州民主党大会から推察する限りでは、民主党は2016年の深い傷を悪化させず、前向きに癒しているようだ。

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プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

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