コラム

【2020米大統領選】前回予備選で旋風を起こしたサンダースの意外な苦戦

2019年05月31日(金)15時30分

sanders190530-02.jpg

予想より参加者が少なかったニューハンプシャー州のサンダースの集会(筆者撮影)

9歳の娘を連れてきた37歳の母親は、これまで5人の候補の集会に参加しており、現時点でトップに考慮しているのがエリザベス・ウォーレンだという。ジョン・ディレイニーの集会で出会った60代の女性も、サンダースのイベントが5つ目だと語った。彼女は好奇心でサンダースの集会に来たが、若い世代の候補の中から選んで投票すると決めていた。

隣の席に座った男性教師は2016年には熱心なサンダース支持者だった。だが、今回の選挙ではブーテジェッジとウォーレンを真剣に考慮していると言う。サンダースと激しく意見を取り交わした後で、候補の理解が欠けているフラストレーションを語っていたことからも、今回は他の候補を支持する可能性が高い。

sanders190530-03.jpg

会場の中で最も情熱的だったサンダースの支持者たち(筆者撮影)

しかし、前回予備選との何よりも大きな違いは、聴衆の熱意だ。

筆者が4月5日に参加したブーテジェッジの集会には、気温0度に近い寒さで氷雨が降っているのにも関わらず2時間前から人々は外で行列を作って待っていた。1000人近くが現れたようだが、消防法で300人しか入れない施設だったために、多くの人は諦めて立ち去ったようだ。それでも500人程度は外で待っていたようで、ブーテジェッジはまずその人たちに挨拶をしたという。会場に候補が姿を現したとたんに聴衆の中から「ピート、ピート」という歓迎のチャントが湧き上がり、彼のスピーチは拍手と喝采で埋め尽くされた。

ハリスのイベントにもブーテジェッジと同様の興奮があった。イベントが始まる何時間も前から長い行列ができ、開始の1時間前に来た人たちは会場に入ることができなかった。

有権者のこういった興奮状態は、2015~16年にかけてのサンダースの集会で感じたものと同じだ。だが、2019年のサンダースの集会には、この興奮が欠けているのだ。

2016年の予備選後半であれば、サンダースが現れる2時間前には1000人以上が集まっていただろう。それなのに、筆者が参加したイベントでは1時間前でもまだ席が余っていた。そして、観衆の反応は礼儀正しいが、情熱的とは言い難いものだった。

筆者は3月~5月末にかけて15人の候補のイベントに足を運んだが、そこでもサンダース旋風の陰りを感じた。それらの集会で出会った元サンダース支持者の大部分が他の候補に切り替える意思を語った。2016年には熱心なサンダースの支持者だった男性は「バーニー(サンダース)は、『民主党を変える』という大役を果たし、これまでにない若い世代の政治家が誕生する道を作った。そのおかげで今回は良い候補が多い。その中から選びたい」と語ったが、他の集会でも同じような意見を繰り返し聞いた。

気候変動政策を最優先しているジェイ・インスレー(ワシントン州知事)の集会に来た20歳の若者も前回の民主党予備選でサンダースに投票した1人だ。彼は「バーニーは2020年の『マイスペース』」という表現を使ったが、それは「マイスペースが登場したときには斬新で素晴らしいソーシャルメディアだったが、2020年には時代遅れになってしまった」という意味である。「僕のオリジナルの表現ではないけれどね」と彼が念を押しているように、「バーニーの時代は終わった」という考え方はかなり広がっているようだ。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中堅銀、年内の業績振るわず 利払い増が圧迫=アナ

ビジネス

FRB、現行政策「適切」 物価巡る進展は停滞=シカ

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

ECB、年内に複数回利下げの公算=ベルギー中銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story