コラム

高級スーパー「ホールフーズ」を買収したアマゾンの野望とは?

2017年06月20日(火)16時00分

「ホールフーズ」の買収でアマゾンは何を狙うのか?(写真は先月末ニューヨークにオープンしたアマゾンのリアル書店)

<オーガニック食品のスーパー「ホールフーズ」をアマゾンが買収したのは意外なニュースだが、アマゾンが最近アメリカにオープンしたリアル書店から、ある「野望」が窺える>

先週16日(金)、アマゾンが「ホールフーズ(Whole Foods)」を買収するというニュースが流れた。ホールフーズは、オーガニック食品の販売で知られるアメリカの高級スーパーマーケット・チェーンだ。

食品を取り扱う小売業は、流通と在庫にコストがかかり、価格競争が激しく、マージンが少ないために生き残りが難しい。ウォール街の投資家から常に収益を上げ、成長を続けるプレッシャーを与えられるアメリカでは、裕福な顧客に人気があるホールフーズでもそのプレッシャーからは逃れられない。今年2月には、収益で苦戦していることが伝えられていた

元はネット書店だったアマゾンが、それを承知で食料品販売のホールフーズを買収したことを意外に思う人は少なくなかった。

しかし、アマゾンはすでに「amazon fresh」というサービスで食料品の宅配業に手を広げている。月額14.99ドル(約1670円)のサービスに登録すれば、当日あるいは翌日の希望時間に食品を自宅に配達してくれる。40ドル以上購入すれば配達は無料というものだ(日本でも首都圏の一部でサービスを開始)。

amazon170620-whole01.jpg

アマゾンはすでに食料品のネット販売を開始している AmazonFresh

宅配サービスも含め、食料品ビジネスでは「最も短いルートで最も効率的に運び、在庫を最低に保つ」という流通システムが重要だ。アマゾンは、この買収で、ホールフーズがすでに編み出した精緻な流通システムを入手できる。

【参考記事】ISISが生んだ新時代の伝播型テロ

また、全米に展開するホールフーズの440店舗も手に入る。アメリカ在住の人ならよく知っていることだが、ホールフーズの店舗は、高級住宅地の周辺にある。新参企業が入り込みにくい場所であり、利用者はオーガニック野菜を含む健康的な食品にこだわる高所得層や若い世代だ。ホールフーズを入手することで、アマゾンは最も望ましい場所と顧客を手に入れることができる。

そのうえ、スーパーマーケット運営のノウハウと人材も一夜にして手に入れることができる。つまり、手探りで一からスタートして業界のトップに上り詰める手間をすっかり省けるというわけだ。

しかし、ホールフーズ買収の理由は、「ネットで宅配を始めた食料品販売に本腰を入れるため」とか「食料品販売業でも成功する」という小さな目標のためではないだろう。

アマゾンには、もっと大きな野望があるはずだ。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、FRB次期議長の承認に自信 民主党の支

ワールド

エプスタイン文書追加公開、ラトニック・ウォーシュ両

ワールド

再送-米ミネソタ州での移民取り締まり、停止申し立て

ワールド

移民取り締まり抗議デモ、米連邦政府は原則不介入へ=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタリア建築家が生んだ次世代モビリティ「ソラリス」
  • 3
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 4
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 5
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 6
    中国がちらつかせる「琉球カード」の真意
  • 7
    【銘柄】「大戸屋」「木曽路」も株価が上がる...外食…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    「着てない妻」をSNSに...ベッカム長男の豪遊投稿に…
  • 10
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story