コラム

イスラム国サヘル州の脅威──対外攻撃の拡大にトランプ政権の対応は?

2025年03月27日(木)10時36分

【サヘル地域での活動拡大と戦略的転換】

イスラム国サヘル州は、サヘル地域での活動を通じて戦術を進化させてきた。初期はマリとニジェールの国境地帯(リプタコ・グルマ地域)で、政府軍や国連平和維持軍(MINUSMA)を標的にした攻撃が主だった。

2017年のトンゴ・トンゴ襲撃では、アメリカ・ニジェール合同パトロール舞台が襲われ、米兵を含む8名が死亡し、イスラム国サヘル州の戦闘能力や脅威が国際社会に強く発信されることとなった。

近年はブルキナファソにも活動を拡大し、2023年のグローバル・テロリズム・インデックスでは、サヘル地域のテロ関連死者の約25%をイスラム国系組織が占め、イスラム国サヘル州が主要な役割を担っている。

2022年のフランス軍撤退後、イスラム国サヘル州は権力の空白を利用し、密輸や麻薬取引で資金を確保しながら勢力を強化している。さらに、イスラム国サヘル州はトーゴやガーナ、コートジボワールなどギニア湾諸国へも活動範囲を拡大させ、ギニア湾諸国は近年、"テロの南下"を強く警戒している。


イスラム国サヘル州の越境性を考慮すれば、今回のモロッコのケースはその延長線上にあり、イスラム国ホラサン州やソマリア州のように、国際的なテロ活動にも重点を置いているように考えられる。

【なぜ、イスラム国サヘル州は対外的攻撃性を示したのか】

イスラム国サヘル州が対外的攻撃性を示した背景はいくつか考えられる。まず、2019年の中東でのISによる支配地域の喪失以降、ISはアフリカへ活動の軸足を移した。シリアやイラクでの領土喪失を補うため、サヘルや西アフリカなどの地域支部を強化し、グローバルなジハード運動を維持することに努めた。

モロッコでのテロ計画は、この国際化戦略の一環とも捉えられよう。また、モロッコは観光業(GDPの7%以上)や欧州との経済的結びつきを背景に、経済的繁栄を内外に強く示してきたが、その安定を崩すことで、欧米諸国へ自らの影響力を誇示する狙いがある。

さらに、フランス軍や米軍の撤退後、ロシアのワグネルグループなどの介入がある一方で、イスラム国サヘル州は混乱を利用して活動しやすい環境を確保しており、対外的攻撃に時間やコストを割ける十分な余裕があることも考えられよう。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

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