コラム

世界初の化学兵器テロ「地下鉄サリン事件」、その衝撃と教訓が変えた世界のテロ対策

2025年03月20日(木)12時59分
世界初の化学兵器テロ「地下鉄サリン事件」から30年、その衝撃と教訓が国際テロへ与えた影響

東京消防庁と警視庁の特殊部隊による核・生物・化学物質災害訓練(2005年3月20日、地下鉄神谷町駅)-reuters-

<目に見えない脅威が都市部で現実化したあの日から30年。その教訓はその後の国際テロ対策にも活かされてきたが、技術革新が急速に進む今日、新たなテロの手法・形態を警戒する必要がある>

1995年3月20日に発生した地下鉄サリン事件は、オウム真理教による日本国内での無差別テロであり、戦後日本における最も深刻なテロ事件の一つとして歴史に刻まれている。この事件は、東京の地下鉄3路線でサリンという化学兵器が散布され、13人が死亡、約6300人が負傷するという未曾有の惨事を引き起こした。

事件から30年が経過した今日、このテロが国際テロ情勢に与えた影響は多岐にわたり、特にテロの形態、対策、国際協力の進展という観点から顕著である。この記事では、地下鉄サリン事件がその後の国際テロ情勢に与えた影響を論理的に整理してみたい。


【地下鉄サリン事件からの教訓】

まず、地下鉄サリン事件は、化学兵器を用いた無差別テロの先駆けとして、テロの形態に新たなパラダイムをもたらした。それまでテロといえば、爆弾や銃器を用いた物理的攻撃が主流であったが、サリンのような神経ガスの使用は、目に見えない脅威が都市部で現実化し得ることを世界にに印象付けた。

この事件は、テロリストが従来の手段を超え、大量破壊兵器(WMD)を市民に対して使用する可能性を浮き彫りにし、その果、国際社会は化学・生物兵器によるテロの危険性を再認識し、これが後のテロ対策の優先事項に影響を与えた。

例えば、2001年のアメリカ同時多発テロ事件(9/11)後、アメリカ政府は炭疽菌攻撃への懸念から生物・化学テロ対策を強化したが、これは地下鉄サリン事件が与えた教訓が背景にあったと言える。

具体的には、1997年に発効した化学兵器禁止条約(CWC)の批准プロセスが加速し、各国が化学兵器の廃棄と監視体制を強化する契機となった。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story