コラム

霧ヶ峰で古代の自然信仰に出会う 「歩く」ことで人生の歩みを再確認

2020年03月23日(月)18時30分

◆リフト搭乗の"ルール違反"

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スキー場のリフトで山頂へ

さて、今回の目標地点は、我が別荘地を見下ろす霧ヶ峰高原の最高峰、車山(1,925m)である。この八ヶ岳山麓から諏訪湖にかけての長野県諏訪地域は、日本人の源流である縄文文化が花開いた地だ。前回は、諸星大二郎の縄文ロマン漫画『暗黒神話』の舞台になった尖石遺跡を訪ね、その一端に触れた。縄文は自然信仰の文化だ。前回の旅では、聖なる八ヶ岳・蓼科山を眺めながら日本人の一人として自らのルーツに思いを馳せたが、今回は信仰の対象であった「山」そのものの山頂に立ち、思いを深めたいと考えた。

その車山山頂に至る前に、重大な告白をしなければならない。「徒歩の旅」であるからには、乗り物移動はご法度である。しかし、今回は車山山頂まで、スキーリフトに乗った。リフトが乗り物に当たるかは判断が分かれるところだが、やはり僕は乗り物だと思う。そういえば、第6回で立ち寄った天空のニュータウン「コモアしおつ」へも、駅から高台のニュータウン中心部まで、長いエレベーターに乗った。その時は特に"ルール違反"だとは思わなかったが・・・。

実は、今回、愚直にゲレンデ脇の登山道を歩こうかとも迷ったのだが、スキー場として整備されている山だとはいえ、雪山登山である。高校時代に少し山をかじったくらいの僕には危険すぎる。反面、ここまで来て縄文文化的にも意味が深い「山頂」に立たないのももったいない。それで、グレーゾーンのリフトを利用させてもらったのだが、このモヤモヤは最後まで心の片隅に残ることだろう。

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車山高原スキー場のゲレンデ

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リフト山頂駅から望む八ヶ岳

◆天空の自然信仰の聖地

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車山山頂付近から見る中央アルプス、富士山、北アルプス

車山山頂からは、八ヶ岳、富士山、南アルプス、中央アルプス、御嶽山、北アルプス、浅間山と、中部山岳地帯の高山が全て、360度に見渡せる。間違いなく「日本列島の中心に立った感」を得られる場所だ。これは、諏訪大社を訪ねる次回に詳しく考察する予定だが、縄文文化の中心地もこの諏訪にあったと僕は考える。日本人のルーツが地理的にも「真ん中」であるこの地にあったとするのは、あまりに収まりが良すぎる嫌いもあるが、車山の360度パノラマを見れば、多くの人が「さもありなん」と思うのではないだろうか。

そんな車山山頂は、気象観測にも適していて、大きなボール状の気象レーダーが建っている。そして、自然信仰の地としても放っておかれるはずもなく、レーダーと並ぶようにして、御柱(おんばしら)が立つ車山神社が聖地を形成している、御柱とは、諏訪地域独特の神木。諏訪神社の祠や境内を囲むようにして建てられている4本の丸太である。奇祭として有名な7年に一度の「御柱祭」は、これを新しいものに建て替えるために、山からモミの木などの丸太を切り出し、神社まで大勢の人力で運んでくる祭りである。全国的に有名な「御柱祭」は、全国の諏訪神社を束ねる諏訪大社の祭りを指すが、諏訪地方の全て諏訪神社で、同時期に同じことが行われる。それらは「小宮祭」とも総称されている。

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近代的な気象レーダーと重なり合うように建つ4本の御柱に囲まれた車山神社

車山神社も例外ではなく、1,925mの山頂の境内まで4本の御柱が曳かれてくる。数ある御柱の中でも最も高い所まで曳いてこられる「天空の御柱祭」である。僕は、前回の2016年に見ているが、大パノラマの中、地元の人たちの掛け声と共に曳き立てられる御柱は誇らしげだった。「巨木」と「山岳風景」という、日本列島独特の大自然と一体になった祭り。これこそが、縄文文化的なルーツを感じさせる御柱祭の真髄である。

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「天空の御柱祭」。車山山頂まで曳かれてきた車山神社の「一之柱」(2016年9月撮影)

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

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