コラム

「社会が変わってしまう」と答弁した岸田首相は、同性婚に本気で賛成なのか?

2023年03月08日(水)12時32分
西村カリン(ジャーナリスト)
デモ

KIM KYUNG HOONーREUTERS

<G7広島サミットの前に「LGBT理解増進法案」を成立させることを目指す、岸田首相。しかし、なんとなく意見交換するだけの「議論」が続いている。本気度はどれほど?>

昨年6月28日に開催されたG7サミットの首脳コミュニケにはこう書いてあった。

「われわれは女性と男性、トランスジェンダーおよびノンバイナリーの人々の平等の実現に持続的に焦点を当て、性自認、性表現あるいは性的指向に関係なく、誰もが同じ機会を得て、差別や暴力から保護されることに全面的に取り組むことを再確認する」

もちろん、日本の岸田文雄首相もこの声明に署名した。ただ残念ながら、この約束は現実になっていない。

私の母国であるフランスでもLGBTQ(性的少数者)への差別が全くないとは言えないし、実際のところたくさんある。しかし法律では、性的指向を理由とした差別的な表現や暴言、暴力が禁じられている。

日本はG7で唯一、そうした差別を禁止する法律がない。だから差別発言をした人々は何の罪にも問われない。LGBTQや同性婚について「差別発言」をした荒井勝喜首相秘書官は即時更迭されたが、発言自体は違法ではない。そのため、今年のG7議長国である日本は海外から批判されている。

これを恥ずかしいと感じているかもしれない岸田首相は、5月19~21日に行われるG7広島サミットの前に「LGBT理解増進法案」を成立させることを目指している。

ただ自民党内の一部の反対により、内容は「LGBT差別禁止法案」になっていない。中身だけでなく、「理解増進」という表現もおかしい。いったい何を理解するのか。「LGBTQは普通ではない、異常だけど理解をいただきたい」と言っているように聞こえる。少なくとも別の言語に翻訳すると、そういうふうに聞こえてしまう。

LGBTQへの差別的な姿勢や表現、暴言などを明確に禁止し、それは罪であると定める法案にしない限り、差別は許され続ける。つまり、昨年6月のG7の声明に背くことになる。日本の政府が海外に向けて言っていることと、国内の現実あるいは法律で定められていることが異なるのは問題だろう。

首相の発言にも問題がある。本人は同性婚に反対か、賛成かを言いたくないようだ(同性婚についても日本はG7で唯一、法的に認めていない)。自分の意見が言えない首相なんて他のG7の国にはいないだろう。何を恐れているのか。反対だから言えないのか、賛成だから言えないのか。首相として無責任な姿勢だと私は思う。

フランスでは、2013年に同性婚が法的に可能になった。それ以前には反対派と賛成派の激しい議論があったが、国会でしっかり意見が交わされた上で法律が成立した。今も反対派はいるが、昨年の統計を見ると異性婚23万7000件に対し、同性婚は7000件だ。

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