コラム

「イノベーション」か「安心安全」か──念には念を入れすぎる日本の意外な効用

2022年12月01日(木)14時07分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)

工事現場も同様だ。朝礼をして進捗具合を報告し合い、ラジオ体操までする工事現場は他国にはない。これは日本での仕事全般に言えることだ。

新しいことを始める際、念には念を入れて考えつく限りの事態を想定し、対処策を事前に考え、最初から完璧なものを出そうとする。それは、海外の「取りあえずやってみよう、問題が起こったらその時に考えよう」という姿勢とは対極にある。

良い例が、ルンバに代表されるロボット掃除機だ。最初期のモデルが発売されて20年にもなるが、日本の家電メーカーの技術をもってすれば、最初に発売することはできなくても、いくらでも良いモデルを出して市場を奪うことはできただろうに、なぜそれをしないのか? とずっと不思議だった。

だが、日本のメーカーはロボット掃除機がろうそくにぶつかり、火事になったり、人にけがをさせたりするリスクなどを取れなかった、と聞いて腑に落ちた。

念を入れすぎる日本では、なかなか新しい技術や発想が生まれない、受け入れられないのは当然である。

しかしお金は大体いつでも下ろせるし、ドローンが頭の上に落ちてくることも、自動運転の車にひかれることも、自分の暗号資産が突然なくなることもない。

いつもは日本ではイノベーションが生まれないと嘆いている私ではあるが、安心安全に勝るものはないとも思う。


toykyoeye_ishino_profile_w100.jpg石野シャハラン
SHAHRAN ISHINO
1980年イラン・テヘラン生まれ。2002年に留学のため来日。2015年日本国籍取得。異文化コミュニケーションアドバイザー。YouTube:「イラン出身シャハランの『言いたい放題』」 Twitter:@IshinoShahran

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