コラム

アメリカ人が驚いた日本の選挙、そのすごさを他分野にも広げるべき

2021年10月05日(火)20時14分
トニー・ラズロ
投票所

ISSEI KATOーREUTERS

<効率性を重視して画一的なサービスになりがちな日本だが、実は効率性と多様化を同時に実現しているのが選挙の投票システムだ>

ある日、レストランに向かっている最中に天候が崩れた。雨に打たれながら急ぎ足で歩くと、予約の時間より10分ほど早く到着。「○○の予約です」。「かしこまりました。あちらのテーブルになります」。示されたテーブルは用意ができているようだった。「でももう少しお待ちください」。小さい店なので、待つのは「外で」ということになる。まだすごい雨だけど......席に着いて待っていてもいい? 答えは「できません」。仕方なく傘を差し直して外へ。

レストランなど日本のサービス業では、笑顔と丁寧な態度で接してくれる。提供される飲食物にハズレはまずない。そしてチップは要らない。自分の国とどれだけ違うことか。日本を訪れた外国人は誰もが絶賛する。でも、長く滞在すればちょっと足りないところが浮かび上がる。

フライドポテトにケチャップではなく、マヨネーズ(かバーベキューソース)を添えたい。持ち帰り弁当に(小さいわが子のために)お箸をもう一膳欲しい。二人部屋なので、カギをもう一つもらえない? こういった些細な要求に対して「申し訳ありませんが......」と言われることが度々ある。その原因は、国内外で指摘されている日本の「ザ・画一性」にある。

余談だけれど、画一性と言えば、第4次産業革命の1つの課題でもある。人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)による産業構造の変革をそう呼ぶが、政府がその実現に向けて提示している未来戦略「ソサエティー5.0」について、経団連が昨年の報告書にこう記している。

「ソサエティー5.0では、ニーズの多様化が顕著になり、デジタル技術によってそれに応える供給側の環境も整う」。また、「効率重視から解放され、ひとつひとつのニーズに応え(られるようになる)」。第4次産業革命で日本が変われば、サービス業の画一性もついでに修正される......かもしれない。

効率的でありつつ多様化に対応

思うに、日本には既に効率性を保ちながらニーズの多様化に対応している分野がある。デジタル技術とは無関係だが、それは選挙の投票。間もなく衆院選があるが、選挙の時期になれば、有権者には自動的に投票所入場整理券が届く。それを投票所まで持って行けば、次々と案内人、名簿対照係、用紙交付係に案内され、投票用紙に候補者の名前を記入したら、投票立会人の前で投票箱に入れるだけ。画一的だから効率が良い。

だが実は多様なニーズにも対応しており、必要な人のために点字投票や代理投票も用意してある。投票時も開票時も問題はほとんど発生しない。日本では当たり前のことだが、どの国でも同じわけではない。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

半導体への関税率、EUに「劣後しないこと」を今回の

ワールド

米政権、ハーバード大の特許権没収も 義務違反と主張

ビジネス

中国CPI、7月は前年比横ばい PPI予想より大幅

ワールド

米ロ首脳、15日にアラスカで会談 ウクライナ戦争終
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 2
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段の前に立つ女性が取った「驚きの行動」にSNSでは称賛の嵐
  • 3
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中印のジェネリック潰し
  • 4
    伝説的バンドKISSのジーン・シモンズ...75歳の彼の意…
  • 5
    なぜ「あなたの筋トレ」は伸び悩んでいるのか?...筋…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 7
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 8
    60代、70代でも性欲は衰えない!高齢者の性行為が長…
  • 9
    今を時めく「韓国エンタメ」、その未来は実は暗い...…
  • 10
    「靴を脱いでください」と言われ続けて100億足...ア…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 7
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 8
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 10
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story