コラム

東京五輪の今年、日本の「死刑」について考えよう

2020年01月16日(木)11時00分
西村カリン(AFP通信記者)

オリンピックの年に死刑執行の停止を訴える国際運動もある Issei Kato-REUTERS

<オリンピックは世界最大のスポーツの祭典、その憲章には「人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励すること」とある>

2020年、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

今年は、半世紀ぶりの東京オリンピック・パラリンピックの年だ。スポーツ界最大の国際的イベントでありながら、平和を訴える大会。オリンピック憲章は、オリンピズムの目的を「人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励すること」と定めている。大会期間中は戦争を停止する「オリンピック停戦」という伝統もある。毎回実現できるわけではないが、平和を象徴する重要な原則ではないかと思う。

もう1つ、日本ではほとんど報道されないが、オリンピックの年に死刑執行の停止を訴える国際運動もある。死刑制度は重い話題で、新年早々にこんな話をすることに違和感を覚える読者もいるかもしれないが、2月に取り上げたら軽くなるわけでもない。オリンピックの年が始まったばかりだからこそ、議論の意味がある。

私は1997年までフランスで暮らしていた。フランス人は議論が好きで、政治の話もよくする。食事会や飲み会の際に重いテーマを取り上げることも、家庭で政治の話をすることもタブーではない。私が子供の頃、母は死刑制度についての本を読んだり、映画やテレビ討論を見たりしていたので、私もその影響を受けた。死刑は哲学的な問題だと思う。国は殺す権利を持っていいのか。裁判で犯罪者を殺すことを決めていいのか。フランスの高校では、哲学の授業でこんな議論をし、昔の哲学者が書いた文章を読みながら自分の考えを表現する。つまりフランスの子供たちは家庭でなくても、少なくとも学校で死刑制度について考えている。

1981年5月、私が11歳になる直前、社会党のフランソワ・ミッテランが大統領に当選した。いろいろな理由でとても印象的な出来事だった。ミッテランは、「もし当選したら死刑を廃止する」と言っていた。当時はフランスでも子供が殺されるなどむごい事件がたくさんあり、言うまでもなく、犯罪者に死刑判決を求める国民も多かった。

にもかかわらず、同年9月に国会で死刑廃止が正式に決まった。国民投票だったらおそらく、逆の結果になった。政治家が世論ばかりを尊重して物事を決めるとしたら、税金も廃止されるだろうが、そんなことは考えられない。同じく、世論が死刑を求めているから議論しない、廃止を考えないという姿勢は時代錯誤だと思う。世界中が死刑廃止の傾向にあるなか、そろそろ日本でも冷静に議論したほうがいいのではないか。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、武器輸出・共同生産拠点を独とデンマーク

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、利益確定優勢 米ハイテク

ワールド

ペルー、メキシコとの国交断絶表明 元首相の亡命手続

ビジネス

マツダ、ロシア合弁自動車会社の半数株買い戻し権を喪
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story