コラム

外国人観光客を図に乗らせている、過剰な「おもてなし」やめませんか

2019年12月20日(金)11時20分
周 来友(しゅう・らいゆう)

TOMOHIRO OHSUMI-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<マナーの悪い観光客と言えば中国人、というのが通説だが、実際は欧米人だってひどい。なぜ日本では外国人観光客全般のマナーが悪くなりがちなのか>

日本ではよく「お客様は神様」と言われるが、本当は「神様」なんかじゃない。新宿ゴールデン街のママたちから愚痴を聞いて、そんな思いが頭によぎった。

ゴールデン街には今、欧米からの観光客が大挙して訪れている。わずか3~4.5坪の小さな飲食店が密集するゴールデン街では「はしご」が当たり前。店に入り、チャージも払って何杯か飲んだら次の店に移る。そういう楽しみ方が一般的だ。彼らがそれを知らないのは仕方がないとしても、チャージについて説明すると文句を言ったり、同じ店にずっといて大騒ぎしたりするらしい。私も目撃したことがある。

品川の駅前ではこんな光景も見掛けた。高輪口を出ると、歩道橋の近くに広いスペースがあるが、そこで白昼堂々、欧米人の観光客たちが酒盛りをしているのだ。すぐ近くに交番があるのに、警察官もその迷惑行為を注意しない。路上で繰り広げられる安上がりなパーティーと、散乱したビールの空き缶を見たのは1度や2度ではない。

観光客のマナーが悪いのは今に始まったことではないし、日本に限った話でもないだろう。ただ、これまで日本ではマナーの悪い観光客と言えば中国人、というのが通説だった。そんな報道が繰り返されてきたし(編集者によると、本誌でも2007年に中国人観光客の特集を組んだらしい)、「銀座の路上で中国人が子供に小便をさせていた!」と、ワイドショーでこぞって報じられたりもした。なぜ「マナーが悪い欧米人」は話題にならないのだろう。

何も「中国人は悪くない」と言いたいわけじゃない。文化の異なる国からやって来るのだから、日本の習慣に戸惑う人がいるのは当たり前。問題は、日本では外国人観光客全般のマナーが悪くなりがちで、それはなぜかという点だ。

私はその原因は日本の「おもてなし」にあると思っている。迷惑だと思っても「神様」だから注意できない。それが彼らを勘違いさせ、図に乗らせているんじゃないか。例えばアメリカでは路上飲酒が禁止されている州が多い。そこで、「日本ではOKだってさ!」とハメを外して飲んでしまう──だからと言って空き缶を散乱させていい理由にはならないはず。

日本に来ると「お客様は神様」で、デパートに入れば深々とお辞儀をされ、買い物をすれば商品は丁重にラッピングされる。プレゼントだと言えば、手渡し用に奇麗な紙袋を付けてくれることさえあり、そんな経験をしたことのない外国人は単純に感激してしまう。「日本ってスゴイ!」

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英総合PMI、12月速報は52.1に上昇 予算案で

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

ウクライナ提案のクリスマス停戦、和平合意成立次第=

ビジネス

EUの炭素国境調整措置、自動車部品や冷蔵庫などに拡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story