コラム

音声SNS「クラブハウス」を告発、ドイツ消費者保護法違反で

2021年02月19日(金)17時00分

ドイツ消費者保護法違反として告発された「クラブハウス」。データが中国企業に送られていることも発覚した......  REUTERS/Florence Lo/Illustration/File Photo

<音声専用SNS「クラブハウス」はなぜ急激に世界で注目されているのか。いっぽう、ユーザーの名簿を要求する仕様のために、ドイツ消費者保護法違反として告発されることになった...... >

アプリ削除の勧告

現在、人気急上昇中の「クラブハウス」は、音声専用のライブ・ディスカッション・アプリだ。ドイツでは昨年末から、iPhoneで最もダウンロードされたアプリのひとつになっている。

世界が注目するクラブハウスだが、ドイツではこのアプリをめぐる問題が噴出している。ドイツ最大の消費者保護組織は、クラブハウスのオペレーターである米国の「アルファ・エクスプロレーション(Alpha Exploration Co)」に対し、違法な商慣行とデータ保護違反を止め、アプリを即刻削除するよう求めている。

2021年1月27日、ドイツ消費者組織連盟(VZBV)のクラウス・ミューラー事務局長の声明によると、クラブハウスは欧州連合(EU)のデータ・プライバシー保護法である一般データ保護規則(GDPR)違反の疑いでも告発されている。クラブハウスに何が起こっているのか?

クラブハウスの急成長

クラブハウスは2020年4月のコロナ危機の中でサービスが開始された。フェイスブック、インスタグラム、ツイッターなど、シリコンバレーのスター企業に早くから投資したことで知られるベンチャー・キャピタル「アンドリーセン・ホロウィッツ」は、2020年5月段階で、クラブハウスに1,200万ドル(約13億万円)を投資した。

当時、このスタートアップの価値は1億ドル(約106億円)で、約1,500人のユーザーしかアプリを積極的に使用していなかった。その後クラブハウスの人気は米国を中心に、ドイツ語圏にも広がり、ロックダウン中の過去数週間で驚異的な成長を続けている。

クラブハウスの運営会社は、最近、週に200万人のアクティブ・ユーザーを報告したが、他の外部推計では800万から1,000万人の登録ユーザーがいると報告されている。このデジタル・パネルディスカッション用のオーディオ・アプリは、現在、投資家から時価総額が10億ドル(約1,055億円)と評価されている。

部屋での会話

クラブハウスは、「本物の会話と表現のためのスペース」として自身を説明する。ユーザーは、選択したトピックに対応するライブ会話の「部屋」を設定でき、アカウントを持っている人なら誰でも参加できる。

アカウント所有者は、携帯電話番号を使用して2人までアプリに招待できる。また、クラブハウスはApple iOSでのみ利用可能であるため、Androidユーザーは今のところ使用できない。招待制という希少価値からか、招待コードは高額の値段で、eBayなどで販売されたりもしている。

多くの会話の「部屋」は、億万長者や有名人の遊び場だけではない。このアプリは、起業家やインフルエンサーがいる大きな市場も開拓している。「高収入を得るための毎日の習慣」や「100万ドルのソーシャルメディア・エンゲージメント」といった名前のついた部屋は、専門家からのヒントやアドバイスを渇望する何千人ものリスナーを魅了している。

クラブハウスで大きな利益を手にするためには、先行特権を得ることだ。「クラブハウスのマスター・モデレーターになる」という部屋の人気は、これを象徴している。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米関税で見通し引き下げ、基調物価の2%到達も後ずれ

ワールド

パレスチナ支持の学生、米地裁判事が保釈命令 「赤狩

ワールド

イラン、欧州3カ国と2日にローマで会談へ 米との核

ワールド

豪総選挙、与党が政権維持の公算 トランプ政策に懸念
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story