コラム

Qアノンは数百万人のユーザーによる「代替現実ゲーム」だった

2021年02月09日(火)19時28分

トランプ後のソーシャルメディア

暴力を扇動したという理由で、ツィッター・アカウントを閉鎖されたトランプは、ワシントンからも、インターネットからも姿を消した。トランプとその支持者たちをつないでいた「パーラー」というアプリも一時的に停止され、QAnonに関与しているグループ・アカウントも閉鎖された。

民主党が上院を支配することが明らかになった2021年1月7日、フェイスブックはトランプのアカウントを無期限にブロックすると発表した。トランプをソーシャルメディア上から追放する動きに対して、ドイツのメルケル首相が懸念を表明した。

メルケルは、国家や州政府の枠組みを超えて、米国の主要SNSを運営する「私企業」が、表現の自由の抑圧と言論封鎖を決定したことを問題視しただけでなく、トランプ支持者やQAnonの信奉者たちが、予期しない道へと向かうことを懸念したのである。

一方、トランプがホワイトハウスを去った後、混乱の中心だったツイッター上の摩擦は静かになり、テレグラムやシグナルといった、地下系のメッセージング・アプリに移行する人々の増加により、主流SNSからの分散化がはじまった。事実、トランプのSNSアカウントが停止された後、ツイッターや他のSNSでは、フェイクニュースの拡散は73%減少したと、ワシントンポスト紙は報告した。

QAnon神話の「リーダー」だったトランプが不在となった今、インフォデミックがどう収束するかは世界の関心事である。空白を埋めるために、新しい人物による新たな物語が現れる可能性もある。トランプが、以前よりも声高に、一時的なデジタル亡命から再び登場するかもしれない。

インターネットが生み出した大規模ゲーム

最近、米国のジャーナリストや学者は、QAnonを「作りかけの宗教」と呼んでいる。トランプが不在でも、QAnonの陰謀神話が消えることはないだろう。トランプの「亡命」後は、おそらく彼の救世主的な伝説を煽り、彼を「深層国家」とリベラルエリートたちの犠牲者であり、殉教者にすることになるかもしれない。

現在のQAnonは、トランプというグリップを失ったように見える。だが、その力学は衰えることなく再結合を続け、遅かれ早かれ、それらは新しいARGとして現れるかもしれない。QAnonがARGであるなら、世界で数百万人規模の「プレイヤー」が、ゲームの再開を待っていることになる。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米東部の高齢者施設で爆発、2人死亡・20人負傷 ガ

ワールド

英BP、カストロール株式65%を投資会社に売却へ 

ワールド

アングル:トランプ大統領がグリーンランドを欲しがる

ワールド

モスクワで爆弾爆発、警官2人死亡 2日前のロ軍幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story