歳を取るのは「森に消えるようだ」...大家族の国ガーナで高齢者に忍び寄る孤独の影
AGING ALONE IN GHANA
アフリカでも10本の指に入る経済規模を誇るガーナだが、国の発展から取り残されていると感じる高齢者は多い CHRISTOPHE GATEAUーPICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES
<「病気になったら家でじっとしているだけ」...。若者人口が多い西アフリカ・ガーナで、高齢者の「孤立」が深刻化している>
西アフリカに位置するガーナは、多くの近隣諸国と同じように、若者が人口の大多数を占める。このため政府も若者をターゲットにした政策を打ち出しがちだが、実は高齢者の数が急速に増えている。
ガーナ政府統計局によると、2050年までに60歳以上の高齢者の割合は12%に達する見込みだ。21年は6.8%だったから、ほぼ倍増する計算になる。
しかも、これら高齢者の多くが1人暮らしだ。その背景には、数世代が同居する伝統的な大家族が減り、核家族化が進んでいることや、農村部から都市部に流入する人口の増加、そして国外移住者の増加がある。
かつては年を取ると、同居する子供や親戚が世話をしてくれた。だが、人口の50%以上が都市部に住むようになった今は、多くの高齢者が農村部に取り残されたり、都会のスラムで孤独な生活を送っている。
そこで筆者は、ガーナの6つのコミュニティー(都市部と農村部の両方を含む)で、聞き取り調査を計52件実施し、孤独な高齢者の増加が社会や経済に与える影響を調べた。すると、大家族の崩壊と、高齢者の社会的・感情的な孤立が改めて浮き彫りになった。
夫を亡くした女性の苦悩
ある街に住む73歳の女性は、「娘はカナダにいるけれど、息子はクマシ(ガーナ第2の都市)にいる。でも、訪ねてくることはめったにない。私は1人暮らしで、病気になったら家でじっとしているだけ。誰か気が付いてと祈ることもある」
こうしたケースはもはや例外ではない。政府統計局の生活水準調査とWHOの世界高齢化・成人保健研究(SAGE)によると、ガーナでは高齢者、とりわけ夫を亡くした女性と公的年金を受給していない高齢者の間で1人暮らしが増えている。また、都市部に住む高齢者の22%以上が1人暮らしで、家族など信頼できる人による介護を受けられずにいる。
ガーナの老人が孤独を深めていることは、筆者の調査でも明らかになった。その大きな原因の1つは、政府の社会政策や経済政策が、家族の日常的な支援なしで暮らす高齢者を見落としていることにある。
政府は医療支援や、地域サービスの充実、救急医療網の整備、そして地域ベースのメンタルヘルス介入など、1人暮らしの高齢者を考慮に入れた社会福祉政策を講じるべきだ。
調査では、高齢者が孤独感や経済的な不安、そして医療のアクセスの悪さに苦しんでいることが分かった。信仰や読書が穏やかな時間を与えてくれるが、国民健康保険制度の適用範囲が限られていることや、生活費の上昇、そして家族の支援の減少が、彼らに厳しい生活を強いている。年金組合は存在するが、多くの高齢者は取り残されていると感じている。
とりわけ脆弱な立場に置かれているのは夫を亡くした女性だ。彼女たちは、土地の所有権に関する不安や、子供からの支援減少に特に悩んでいた。一方、高齢男性は、敬われるものの、やることがなく、社会に活用されていないと感じていた。農業や信仰や人付き合いは元気をくれるが、国の発展からは取り残されているというのが彼らの実感だ。
10年に打ち出されたガーナの国家高齢化政策は、高齢者介護を一般の保健医療制度に統合すると約束しているが、その成果は実感されていない。高齢者の大多数は、現役時代に臨時雇いなど「非公式」な労働者だったため、公的年金など引退後の収入保障がないという問題もある。
ある66歳の女性は、「ずっと裁縫師をしてきたが、今は視力が衰えて仕事ができず、年金も貯金もない。キャッサバ(山芋)と祈りで生き永らえている状態だ」と語った。
「まだ社会の役に立ちたい」
「ガーナで年を取るのは、森に足を踏み入れるようなものだ」と、69歳の女性は語った。「ひっそり姿を消して、誰の目にも入らなくなる」
こうした言葉は、高齢者の経験に性差があることを物語っている。女性は夫を失うと経済的・精神的不安が大きくなる。その一方で、平均寿命は着実に延びている。
男性高齢者からは、「まだ死ぬ年齢ではない。社会で意味のあることをしたい」という声も聞かれた。
こうした社会的ネグレクトの影響は甚大だ。WHOによると、高齢者の孤独と社会的孤立は、認知症や鬱、早死にのリスクを50%上昇させる。
ガーナ政府の高齢化政策は、高齢者の健康と安全を向上させ、国の発展の恩恵にあずかれるようにすることが狙いだった。だが、多くの高齢者は依然として手頃な料金で医療を受けられず、高齢者に優しいインフラも乏しく、定期収入がない。
ガーナがいま必要としているのは、新しい壮大な高齢者向け政策ではなく、もっと地域に根差した現実的な高齢者支援と、具体的な行動だ。
例えば、地域ベースの高齢者介護システムを整備して、保健ボランティアに高齢者介護の訓練を施したり、基本的な介護用品を提供したりする。また、既存の年金制度を、非公式労働者にも拡大するべきだ。
高齢化を心身の衰えと考えるのではなく、新しい形で社会に貢献するきっかけと見なす全国的な啓発活動も展開するべきだ。スロープや多機能トイレ、見やすい標識など高齢者に優しいインフラの整備を開発計画に組み込むべきだろう。
こうした措置は慈善活動ではなく、戦略的な投資だ。ガーナ政府が21年に高齢者介護に費やした金額は、保健関連予算の0.5%以下だった。しかし健康で活動的な高齢者は、若い家族の負担を軽減し、社会資本を高め、若者への手助けなどの形で経済にも貢献できる。
教会の青年グループが高齢者に食事を提供したり、年金生活者団体が会員の様子を確認したりといった、草の根ベースの介入は存在する。これを大規模に拡大するべきだ。
ガーナ最大の民族アカンの伝統では、高齢者は知恵袋と見なされる。彼らがコミュニティーに存在しないことは、社会の損失であるだけでなく、文化の消失でもある。
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Andrew Kweku Conduah, PhD Candidate, University of Ghana
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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