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安倍晋三に憧れるのもいいが...高市政権が掲げる「強い日本」構想の真価を問う

TAKAICHI’S AMBITIONS

2025年11月2日(日)10時00分
トバイアス・ハリス(日本政治研究者)
「強い日本」を掲げた高市政権、その現実的課題とは REUTERS

「強い日本」を掲げた高市政権、その現実的課題とは REUTERS

<ついに初の女性首相が誕生。「安倍後継」を自任するタカ派の高市早苗を待つ内憂と外患とは>


▼目次
「高市チルドレン」はいない
トランプ政権の強い圧力
安倍以上のバランス感覚を

高市早苗は10月の3週間でガラスの天井を突き破り、いくつもの難関を乗り越えて、ついに日本初の女性首相の座を手に入れた。自民党総裁選の決選投票では、本命視されていた小泉進次郎を相手に劇的な逆転勝利を収めた。26年に及んだ公明党との連立解消という逆風にも負けず、日本維新の会を新たなパートナーに選んで国会での首班指名を確実なものとし、国民民主党の玉木雄一郎を担いで政権奪取を狙う野党の動きを封じ込めた。

まさしく怒濤の快進撃、勝利の余韻に浸る間もなく野心的な政策構想を打ち出したのも驚くには当たらない。首班指名を受けて臨んだ維新の会指導部との協議では、「本格的な改革保守連立政権」の樹立を高々と宣言した。これに応えて維新の会共同代表の藤田文武は幕末の志士・吉田松陰の言を引き、改革には行動力が必要だとして、今は「狂いたまえ」と高市を激励した。

その晩、初の総理大臣記者会見に臨んだ高市は、直ちに前任者からの路線転換を打ち出した。従来よりも強力な財政刺激(高市の言葉では「責任ある積極財政」)に転じ、一方で「身を切る」政治改革を進めるという。2022年に政府が策定した防衛「戦略三文書」の見直しも前倒しにする。つまり、防衛費増額のペースを速めるということだ。

そこから見えてくる高市のメッセージはこうだ。ここ数年の政権のように慎重なアプローチでは間に合わない、自分は活力とエネルギーとスピードで統治し、「強い日本」をつくるまで「絶対に諦めない」。

「強い日本」は、高市が政界の師と仰ぐ故安倍晋三の描いたビジョン。それは安倍の率いる自民党が政権に返り咲いた12年に掲げられたものだが、あいにく当時と今では政治状況が全く異なる。内政のみならず、世界経済も地政学的な環境も激変し、先が読めなくなっている。10月の快進撃を続けたい高市とその連立政権を待つハードルは高い。

そもそも、自民党の立ち位置が明らかに異なる。12年には、それまでの3年間に野党だったことが幸いした。国民は当時の民主党政権に失望し、懐かしい自民党政権に回帰する準備ができていた。

だが政権を奪還してから13年近くが過ぎた今、国民から昔のような好意は寄せられていない。第2次安倍政権の末期には数々のスキャンダルで党のイメージが傷つき、国民の信頼を失っていた。しかも政治家の感覚と世間の感覚がずれているという認識が強まった。生活必需品の価格高騰で痛めつけられた多くの国民、とりわけ若年層は暮らしの劣化を肌で感じている。

安倍がアベノミクスで目指したインフレは到来したが、「2%の物価上昇」という目標を軽々と超え、食料品やエネルギー価格の上昇が家計に重くのしかかっている。結果、有権者は選挙を通じて連立与党の自民党と公明党に罰を与えた。両党とも国政選挙で敗北を重ね、国会の両院で過半数を割り込んだ。

おかげで石破茂の退任・高市早苗の台頭というシナリオができた。しかし、首相の顔を変えれば危機が解消するというものではない。国民の信頼を回復するには次の一手が重要になるが、自民党の体質を変えると言いながら10年前の政策を蒸し返すようでは、前途は多難だ。

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