最新記事
ガザ

映画『ヒンド・ラジャブの声』が世界に届ける、6歳少女「最期の訴え」とイスラエルの暴虐

2025年9月11日(木)16時10分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学国際学部教授)
ヒンド・ラジャブの遺影を掲げるカウテール・ベン・ハニア監督

第82回ベネチア国際映画祭のレッドカーペットでヒンド・ラジャブの遺影を掲げるカウテール・ベン・ハニア監督(写真左、9月3日) Lucrezia Granzetti via Reuters Connect

<ベネチア国際映画祭・銀獅子賞受賞作。イスラエル軍の攻撃におびえ、死に囲まれながら助けを求め続けた少女の叫びが世界を駆け巡る>


ヒンド(6歳の少女):迎えに来て助けて!

救急隊:迎えに来てほしいのね。

ヒンド:すごく怖いの、お願い! 迎えに来て!
    誰かに電話して、助けに来るように頼んで! お願い!

救急隊:周りは銃声が聞こえるの?

ヒンド:そう、迎えに来て! お願い!

救急隊:今すぐに迎えに行きたいけど(イスラエル軍)行かせてくれない、ごめんね。

救急隊:迎えに行くね。迎えに行けるように救急隊は今準備してる!

イスラエル軍に殺害されたパレスチナ人の少女の実話をもとにした映画『The Voice of Hind Rajab(ヒンド・ラジャブの声)』が、第82回ベネチア国際映画祭でプレミア上映され、銀獅子賞(審査員大賞)を受賞した。

「映画がヒンドを生き返らせ、彼女に加えられた残虐行為を消し去ることはできません。しかし彼女の声を残すことはできます」

授賞式で監督のカウテール・ベン・ハニアはそう語ったと、彼女の出身国チュニジアのラジオ局「モザイク」が伝えている。

24分間にわたって観客のスタンディングオベーションを受けながら、ベン・ハニア監督はさらに「ヒンドの物語は彼女1人だけのものではなく、ジェノサイドに苦しむ人々全体の悲劇です。加害者であるイスラエル政府は罪を犯しながらも罰せられずにいます」と声を詰まらせた。

また、監督は受賞スピーチの中で、この賞をパレスチナ赤新月社とガザで命を救う人々に捧げたいと語った。そして「『ヒンド・ラジャブの声』はガザの声であり、世界への救難信号でした。しかし誰も応えてはくれませんでした。それでもヒンドの声は、責任追及と正義の実現の日まで鳴り響き続けるでしょう」と強調した。

さらに、監督は「ヒンドの声は、裁きと正義が果たされるその時まで響き続けます。私たちは皆、映画の力を信じている。だからこそ今夜こうして集うことができました。映画は、埋もれてしまったかもしれない物語を語り直す勇気を私たちに与えてくれるのです」と言葉を結んだ。

座談会
「アフリカでビジネスをする」の理想と現実...国際協力銀行(JBIC)若手職員が語る体験談
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米CPI、8月は前月比予想上回る加速 前年比1月以

ビジネス

ECBが金利据え置き、今後の金利動向示唆せず

ワールド

国連安保理が緊急会合へ、無人機の領空侵犯で ポーラ

ワールド

英駐米大使、エプスタイン氏との関係で解任
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題」』に書かれている実態
  • 3
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 4
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 5
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    毎朝10回スクワットで恋も人生も変わる――和田秀樹流…
  • 8
    カップルに背後から突進...巨大動物「まさかの不意打…
  • 9
    謎のロシア短波ラジオが暗号放送、「終末装置」との…
  • 10
    村上春樹が40年かけて仕上げた最新作『街とその不確…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 4
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 5
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中