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航空機事故

航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心中」してしまうのか

The Rare But Terrifying Risk of Pilot Murder-Suicides in Air Travel

2025年7月25日(金)11時20分
ヘスス・メサ、カーミヤ・クリシュナン

メンタルヘルスを申告しにくい

スイスの航空事故アーカイブ局のデータを基にした本誌の分析によると、本稿で取り上げた事案すべてがパイロットによる無理心中と最終的に確認された場合、死者数は合計1083人に達する。

「無理心中を図る例は稀だが、一度起これば壊滅的な結果をもたらす。そして、空の安全においてメンタルヘルスがいかに重要であるかを人々に思い出させる」と、航空心理学センターの臨床心理士、ロバート・ボー博士は本誌に語った。


パイロットによる無理心中は、航空事故全体の中で占める割合こそ小さいが、そのインパクトは極めて大きい。遺族に深い悲しみをもたらし、航空機の信頼を揺るがすにとどまらず、パイロットのメンタルケア体制の不備が浮き彫りになる。

「パイロットには高度な警戒心と冷静さが常に求められるが、彼らが直面するのは技術的な課題だけではない。個人的、経済的、対人関係的なストレスもある。これらの重圧が積み重なり、放置されると、危険を招くこととなる」

また、ボーはパイロットの間ではメンタルヘルスの問題に対する社会的偏見が根強く、ベテランパイロットでさえ支援を求めることを躊躇していると述べた。

「われわれは現在、『医療回避』という問題と向き合っている。これは、メンタルヘルスに問題があることを認めると食べていけなくなるかもしれない職種において、特に見られる問題だ。航空業界では、これは非常に現実的な問題だ」

実際、エア・インディア機墜落が起こったインドでは、メンタルヘルスの問題は治療可能な疾患ではなく、個人の弱さと見なされる傾向が強い。2023年にインド北部で行われた調査によると、メンタル疾患に対する治療ギャップ(治療が必要な人が治療を受けていない状態)が95%にも達している。多くの人が恐れや恥、差別を理由に精神医療を受けようとしない実態が浮かび上がっている。

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