トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてきた3つの確実

DEALMAKER OR DESTROYER?

2025年4月17日(木)15時11分
サム・ポトリッキオ(本誌コラムニスト、ジョージタウン大学教授)

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4月5日、全米各地やヨーロッパで大規模な反トランプデモが行われた(ロンドン) JOAO DANIEL PEREIRAーSIPA USAーREUTERS

貿易戦争に勝てない理由

第3に、アメリカは世界との貿易戦争にも勝てない。現在、米大手テクノロジー企業はヨーロッパの大企業に対し、利益率で大きな優位性を持っている。NVIDIA(エヌビディア)の営業利益率は一時60%を記録したが、メルセデス・ベンツのような欧州勢は10%以下だ。

トランプがヨーロッパ勢に懲罰的関税を課せば、報復関税がビッグテックに大打撃を与え、米経済を牽引してきた成長エンジンの多くが失われる。

アメリカのもう1つの優位性は信頼だ。中国は今、より信頼できる貿易パートナーであることを声高に主張している。スペインは既にグローバル経済を破壊しようとするトランプに対抗するため、中国との連携強化を呼びかけている。


相互関税が全面実施されなくても、10%関税とトランプ政権が関税引き上げを脅しの材料に譲歩を得ようともくろむ90日間の停止期間だけで、インフレと失業をかなり悪化させそうだ。経済学者のローレンス・サマーズ元財務長官はこう指摘した。

「特に厄介なのは、潜在的な通商政策の振れ幅が大きくなり、第1次トランプ政権時代でさえ考えられなかった保護主義や、政策のぶれがあり得ることだ」

今後90日間は文字どおりの正念場だ。そして巨大なリスクも残っている。

トランプ政権は関税をめぐるディールを目指すなか、不規則発言や声明で不確実性を広げ続けるのか。アメリカが関税逃れの密輸を取り締まろうとしたり、中国が台湾とその半導体に触手を伸ばしたりすれば、中国との貿易戦争は制御不能に陥り、「熱い戦争」に発展するのか。

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