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荒川河畔の「原住民」(24)

7回の自殺未遂を経験しながら、若者の自殺を止めたホームレスの死生観

2025年3月5日(水)16時30分
文・写真:趙海成
荒川河川敷のホームレス

アルミ缶を拾って売ることが征一郎さんの唯一の収入源だ

<多くの自殺未遂を経験しながら、他人の自殺を止めたこともある荒川河川敷のホームレス。今でも「死」について考えを巡らし、死の「宿命」を信じている。在日中国人ジャーナリスト趙海成氏による連載ルポ第24話>

7回の自殺未遂を経験したという征一郎さん。最近はこのような恐ろしく危険な「ゲーム」を中止したように見えるが、なぜだろうか。

理由は簡単だ。アルミ缶集めの仕事に追われて、死にたいとか、どうやって死ぬかとかを考える余裕がなかったからだという。

※征一郎さんの死生観についての前編はこちら:7回繰り返した自殺未遂について、このホームレス男性は穏やかな顔で語った

自転車でいつもの収集場所に行き、アルミ缶を集めて積み、家に帰るまでに3〜4時間。その後、アルミ缶を1つずつぺしゃんこに潰していく作業に2時間。そしてアルミ缶を足立区の廃品買取所に運ぶのに、往復で4時間以上。

つまりアルミ缶を集めて売ってお金にするために、合計で少なくとも9時間はかかるという。

朝から晩まで働いて疲れると、その後は家に帰って休むだけ。言い換えると、仕事の忙しさで命が延長されているのだ。

とはいえ、自殺について全く考えないわけではない。

「ただ、もし仮にあなたが今、100粒の睡眠薬を持ってきてくれたなら、僕は躊躇せずに受け取るでしょう。そして夜になると、もらった睡眠薬を全部飲み込んで寝る。永遠に起きないかもしれない」

征一郎さんは、自分が自殺したくなるかもしれない理由について、次のように語った。

病気の苦しみや自尊心の傷つきから自殺願望に

「実はここ数日、体が苦しかったんです。今日はあなたが来てくれたから、やっと元気が出ました。でないと僕は、ずっとテントの中で横になって休んでいたと思います。もし病状が重くなれば、僕は病気の苦しみから抜け出すために、何とかして自殺しようとする可能性が高いです」

もう一つ、自殺を考える理由があると征一郎さんは話す。

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