最新記事
シリア情勢

アサドを倒した「シャーム解放機構(HTS)」は「過激派」なのか、それとも「穏健派」なのか?

TO SEIZE A CHANCE FOR PEACE

2024年12月18日(水)15時55分
ウィリアム・プラウライト(ダラム大学助教)
HTSのモハマド・ジャウラニ指導者

12月8日の首都制圧後にモスクで演説するHTSのモハマド・ジャウラニ指導者 BALKIS PRESSーABACAーREUTERS

<2013年に取材した前身組織からは、国際社会との対話を望む姿勢が垣間見えたが...>

シリアでバシャル・アサド大統領の独裁政権が崩壊し、13年に及ぶ苦難の内戦に終わりが訪れるかもしれない。

最も楽観的な見方をするなら、平和のチャンス到来だろう。慎重に見るなら、2011年のカダフィ政権打倒後のリビアのように、混乱と暴力が延々続く事態が想定される。

次に何が起こるかは、シリア国内と同様に国外の勢力次第だ。筆者は13年にシリアに滞在し、今回アサド政権を打倒したシャーム解放機構(HTS)を後に構成することになるいくつかの組織に取材した。

話を聞くうち、彼らは国際社会が彼らと関わろうとするなら、きちんと耳を傾ける姿勢があることが分かった。

【動画】西側メディアの取材を受けるHTSのモハマド・ジャウラニ指導者 を見る


HTSは17年に、元アルカイダ系の「シリア征服戦線(旧アルヌスラ戦線)」を含むシリア北西部のイスラム主義武装勢力の連合体として結成された。その後、HTSは北部イドリブの片隅に追いやられていた。

それでも、ロシアの軍用機とレバノンのイスラム主義組織ヒズボラの戦闘員の支援を得たアサド政権の攻撃で他の多くの武装組織が弱体化するなか、彼らは持ちこたえていた。

分岐点を迎えたシリアの今後は、さまざまな道筋が考えられる。HTSのルーツがイスラム主義勢力である点に注目する人もいる。その視点に立つなら世界にとって悪夢のシナリオが実現する──シリアでイスラム過激派が権力を握るのだ。

その一方で、彼らは既に過激なルーツから脱却したという主張もある。

アルヌスラ戦線は国際的な悪評を嫌って16年にアルカイダと袂を分かち、シリア征服戦線と改称。後にHTSとなった。最近はさらに穏健路線を進めようと、宗教的な寛容すら奨励している。その主張が信頼に足るなら、平和で安定した国家の構築を目指すかもしれない。

トランプ政権の対応は不透明

筆者はさまざまな反政府勢力に話を聞いたが、彼らは皆、国際社会から無視されていると感じているようだった。(当時はアメリカが支援していた)自由シリア軍(FSA)のある将軍は、国際支援なしには国際人道法に従うのは困難だとこぼした。

平和的協力を望むという武装勢力の主張をうのみにするのは間違いだろう。だが同時に、完全に無視していても戦争終結にはつながらない。

イランとロシアの介入が失敗したことを喜ぶ向きも多いが、彼らのシリアに対する影響がやむとは考えにくい。一方、かねてからHTSを支援してきたトルコは、影響力を及ぼす強い立場にあるようだ。

米トランプ次期政権がシリアにどう関与するかはまだ不明だ。軍事的な積極関与は考えにくいが、HTSと手を組む事態も想像し難い。

イスラエルはゴラン高原のシリア支配地域にある非武装緩衝地帯を一時的に掌握した。これがゴラン高原での紛争激化につながるのではないかと、一部で危惧されている。

今後の展開はシリアと中東に大きな影響を及ぼし得る。その中心にいるのがHTSだ。HTSは権力を維持できるのか、できたとしてもどんな政権を築くのか、いまだ不透明だ。

この正念場において、中東および世界の大国の対応がカギとなる。平和というチャンスを逃さないためには、HTSとの関与は避けられない。

The Conversation

William Plowright, Assistant Professor in International Security, Durham University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

東京アメリカンクラブ
一夜だけ、会員制クラブの扉が開いた──東京アメリカンクラブ「バンケットショーケース」で出会う、理想のパーティー
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平で前進、合意に期限はないとトランプ氏

ビジネス

ステランティス会長、欧州自動車産業の「衰退リスク」

ワールド

米メディケア、15品目の薬価交渉で36%削減 27

ビジネス

豪CPI、10月は前年比+3.8%に加速 緩和サイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中