最新記事
ウクライナ戦争

多数のロシア兵が戦わずして降伏...「プーチン神話」になぜ亀裂が入ったのか?

Dramatic Turnaround

2024年8月20日(火)14時27分
カール・ビルト(ヨーロッパ外交評議会共同議長、元スウェーデン首相・外相)

ゼレンスキー大統領

F16の到着を発表するゼレンスキー大統領 VALENTYN OGIRENKOーREUTERS

周知のとおりプーチンは時に現実をねじ曲げて解釈するが、自軍がウクライナ軍をさっさと追い出せないことはさすがに分かっているだろう。この状態が続けば、彼が昨夏以降、多大の犠牲を払いつつ慎重につくり上げてきたナラティブは、もろくも崩れかねない。

ロシア軍の指揮官はクルスクに援軍を派遣しようとしているが、ウクライナ軍を駆逐するどころか、包囲に必要な兵力すら確保できないありさま。ウクライナ軍は今回の奇襲で、昨年の反転攻勢で奪還した地域よりはるかに広大な地域を制圧した。


ロシア軍がハルキウで3カ月かけて上げた戦果より、ウクライナ軍がクルスクで3日で上げた戦果のほうが大きいとみていい。

一瞬にして戦局の風向きは変わった。ウクライナ軍は1000平方キロ前後のロシアの領土を制圧したと伝えられている。制圧地域やその周辺から避難した住民は10万人を超えた。加えて、多数のロシア兵が戦わずして降伏したもようだ。

それでも、この奇襲の主な成果はクルスクの戦場ではなく、ウクライナとロシアを取り巻く政治状況にある。ウクライナでは士気と決意が高まり、ロシアでは疑念と先行き不安が高まった。西側諸国も戦局の変化に気付きつつある。

ウクライナは長く苦しい消耗戦の果てに敗北する運命にある──プーチンはそう語り、西側にもそう主張する人が多くいた。米大統領選の共和党の副大統領候補、J・D・バンスもその1人。だが今やその「予言」は説得力を失った。

今こそ西側はウクライナへの支援を強化するべきだ。ウクライナ軍がモスクワ郊外まで前進するかどうかは問題ではない(そんなことはあり得ない)。だが、ロシアの政治指導者たちに「この狂った戦争には勝てっこない」と気付かせることはできる。

西側の支援拡大が急務

クルスク侵攻がこの戦争の転換点の1つとなったことは確かだが、ロシアの指導者層に現実を認めさせる決定的な転換点にできるかどうかは今後の成り行きによる。そうできる可能性は十分にある。

もちろん、これから数日間、あるいは数週間の戦闘の行方に多くが懸かっている。プーチンの流儀からして侵攻部隊への攻撃に加え、都市へのミサイル攻撃などウクライナ本土への攻撃を拡大するのは目に見えている。これまでも守勢に追い込まれたときは、必ずそうしてきたからだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、米ロとの3カ国協議を支持 「最大限

ワールド

ウクライナ大統領、18日に訪米へ 米ロ会談後にトラ

ワールド

中国の王毅外相、インド訪問へ ヒマラヤの係争地につ

ワールド

前提条件なしの協議可能、米ロ首脳会談が証明=ロシア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中