最新記事
後継者

中国による「傀儡ダライ・ラマ」誕生を阻止せよ

A CRUCIAL CHOICE

2024年8月5日(月)14時10分
ブラマ・チェラニ(インド政策研究センター教授)
ダライ・ラマ14世

89歳になったダライ・ラマは今もチベットの抵抗の体現者 ANI PHOTOーREUTERS

中国が選んだダライ・ラマを担ぐぐらいなら、ダライ・ラマがいなくなるほうがマシ

チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の後継者をめぐって、懸念が急速に高まっている。膝の治療のため6月下旬に渡米したダライ・ラマは7月6日、同地で89歳の誕生日を迎えた。世界各地のチベット人がさらなる長寿を祈る一方、中国はその死を待ち望んでいる。中国の「操り人形」を後継者に据えようとしているからだ。

ダライ・ラマは観音菩薩の化身で、初代が生まれた1391年以来、13回転生したとされる。ダライ・ラマが死去すると、転生者の特定を任務とする高僧らの助言の下、予言に基づく後継者探しが始まる。だが中国は近年、次のダライ・ラマを選定する権利があるのは中国政府だけだと主張している。


中国の介入は今に始まったことではない。1995年には、ダライ・ラマに次ぐ存在のパンチェン・ラマの転生者を、中国が決定した。他方でダライ・ラマ自身が新しいパンチェン・ラマと認めた6歳の少年は当局に拉致され、ほぼ30年後の今も拘束中とみられている。

ダライ・ラマは中国にとっての「白鯨」だ。1937年に先代の転生者と認定された現在のダライ・ラマは、中国がチベットを併合した51年以降、中国共産党の目の上のこぶになっている。非暴力思想を貫き、89年にノーベル平和賞を受賞。中国の占領に対するチベットの抵抗を体現している。

かつてはチベットの精神的指導者で政治的指導者でもあったが、現在のダライ・ラマは2011年、インド北部を拠点とするチベット亡命政府に政治的権限を委譲。同政府は5年ごとに、各地の亡命チベット人が参加する民主的選挙で選ばれている。

さらに、ダライ・ラマは「転生制度」廃止を示唆している。これは、中国が選ぼうとする後継者の正統性を損なう動きだ。中国にとっては、ダライ・ラマがいなくなるよりも、共産党に献身的なダライ・ラマがいるほうがずっと都合がいい。そう承知しているダライ・ラマは、自らの肉体が衰えてきたことも分かっている。

ダライ・ラマの旅行頻度が明らかに減少しているのは健康状態が理由の1つだが、それだけではない。中国の圧力に屈する形で、欧州の民主主義国家やアジアの仏教徒中心の国を含め、多くの国が入国許可に消極的だからだ(例外は日本だ)。幸い、気骨を失わない国もある。アメリカは膝治療のためにダライ・ラマを受け入れ、インドは59年以来、亡命生活の場を提供している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資

ワールド

イスラエルがシリア攻撃、少数派保護理由に 首都近郊

ワールド

学生が米テキサス大学と州知事を提訴、ガザ抗議デモ巡

ワールド

豪住宅価格、4月は過去最高 関税リスクで販売は減少
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    フラワームーン、みずがめ座η流星群、数々の惑星...2…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中