「弱者男性」論は、なぜ盛り上がるのか?...産業構造の変化と「キラキラ勝ち組」の彼方
Lukas_Rychvalsky-pixabay
<女性やLGBTが社会的な承認を得て地位を向上させていく中で、「没落」していった男性たちの背景について>
自分たちの居場所がない、声も無視されている...。産業構造やメディア環境、そして価値観の変化についていけない苦境。
気鋭の批評家・藤田直哉の最新刊『現代ネット政治=文化論: AI、オルタナ右翼、ミソジニー、ゲーム、陰謀論、アイデンティティ』(作品社)より「第一部 ネット時代の政治=文化」を一部抜粋。
2010年代を総じて評するならば、人種差別、民族差別、女性差別などの問題は解決に向かい、素晴らしい成果を挙げ進歩した時代だったと言える。
筆者は、様々な差別や抑圧を大変憎み、「有害な男性性」の有害さに大変怒りを感じているので、この「進歩」を基本的に歓迎している。
だが、アイデンティティ問題が前景化した結果、氷河期問題、格差、階級差などの問題が相対的に放置されることになってしまい、そのことが別種の問題を引き起こしている点についても、無視してはいけないのだろうと思われる。
フェミニズムが力を持った背景には、SNSが短文や画像中心であり、世論が「共感」で動くようになっていったという技術的な側面がある。そしてもうひとつ、産業構造の転換がある。
ラストベルトなどにおける自動車産業などの重化学工業から、ITや接客、介護などの情報やコミュニケーションを重視する産業へと移行すると、女性の経済力が上がり、発言力や地位も増していく傾向が出る。相対的に、工場などで働いていた男性や、その価値観(男らしさ)などの地位は低下していく。
「弱者男性」論者とフェミニズムの対決の背景にはこのような産業構造の転換があり、それが「都市/地方」の格差とも重なって来る(都市の方が、新しい産業の仕事が多いからである)。
女性たちやLGBTが社会的な承認を得て地位を向上させていく中で、男性たちの地位が低下していくように感じられる。
価値観、「男らしさ」、生き方の基盤である産業構造が変わったことに適応できない男性たちが没落していき、「弱者男性」論と呼ばれる論陣に繋がっていく。
その議論は多様なのだが、簡単にまとめると、女性やLGBTなどには支援があるが「弱い」男性である自分たちは見過ごされている、ということが中心的な論点である。
それは、「男性」であるだけで「加害者」「特権階級」と即座にみなすような本質主義的なアイデンティティ・ポリティクスへの批判であり、「共感」を中心にした世の中において、アテンション・エコノミーで劣る中年男性はどう救われればいいのかという問題提起だった。その中には正当な部分がある。
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