最新記事
中東情勢

イランのライシ大統領墜落死で革命と神権政治の仮面をかぶった「暴力国家」に加わるさらなる嘘

EVEN WORSE

2024年5月31日(金)17時21分
グレン・カール(本誌コラムニスト、元CIA工作員)

newsweekjp_20240529023627.jpg

イランからのドローンやミサイルは次々に迎撃された(イスラエル領内、4月14日)AMIR COHENーREUTERS

15年に米英仏ロ中独との間で、イランが核開発を制限するのと引き換えに欧米諸国がイランに対する経済制裁を解除するという「包括的共同作業計画」、いわゆるイラン核合意が締結された。しかし、先に合意を離脱したのはアメリカだった。

それでも昨年10月7日にハマスがイスラエルを攻撃し、イスラエルがガザに侵攻した後、ライシ政権はアメリカに、そしてイスラエルに、地域の戦争に巻き込まれたくないという意思を慎重に伝えてきた。

しかしイスラエルとハマスの戦争は長引き、地域の緊張は徐々に悪化。フーシ派は紅海を航行する各国の船舶や、さらには米軍の駆逐艦に向けて、ミサイル攻撃を繰り返した。

今年4月にはシリアのイラン大使館がイスラエルによるとみられる空爆を受け、イランの軍司令官などが死亡。

イランは報復として300以上のドローン(無人機)やミサイルでイスラエルを攻撃した(驚くことにイスラエル、アメリカ、フランス、イギリス、ヨルダンの迎撃システムが連携しほぼ全て撃ち落としたが)。

しかし、いずれミサイル攻撃が「成功」するか、イランやイスラエル、近隣の国で新たな惨事や緊張が起きるか、あるいはイスラエルやイランの兵士、ヒズボラの戦闘員が殺害されるだけでも、戦争が勃発する可能性がある。

ライシの後継者の下でイランがさらに強硬になれば、緊張が高まり、小さな事件が大規模な紛争に発展する危険性が高まる。ハマスの攻撃がイスラエルのガザ侵攻を誘発して以来、中東の全ての当事者が避けようとしてきた戦争が、ついに始まるかもしれない。

トランプ核合意離脱の代償

ライシの前任者たちは長年にわたり、アメリカや西側諸国との関係改善を模索してきた。もちろん、それはアメリカ主導の制裁を終わらせるためではあった。

しかし、18年に当時のドナルド・トランプ米大統領が核合意からの離脱を決め、アメリカはイランに追加制裁を科した。

イランは著しく高まるアメリカの敵意を目の当たりにして、自分たちが合意を遵守しても何の利益も得られないと判断し、核燃料の加工と核兵器製造能力の開発を再開した。そして、西側諸国との融和を探る代わりに、ロシアや中国との戦略的関係の緊密化を目指した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今

ワールド

APEC首脳会議、共同宣言採択し閉幕 多国間主義や

ワールド

アングル:歴史的美術品の盗難防げ、「宝石の指紋」を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中