最新記事
中東情勢

イランのライシ大統領墜落死で革命と神権政治の仮面をかぶった「暴力国家」に加わるさらなる嘘

EVEN WORSE

2024年5月31日(金)17時21分
グレン・カール(本誌コラムニスト、元CIA工作員)

newsweekjp_20240529023647.jpg

ライシの葬儀に参列したハメネイ(テヘラン、5月22日) LATIN AMERICA NEWS AGENCYーREUTERS

22年にロシアがウクライナに侵攻し、アメリカがロシア、イラン、中国に対する制裁を強化すると、イランはロシアや中国との連携をさらに鮮明にした。

ライシがこのような文脈でロシアや中国と距離を縮めたのは、トランプと米共和党の自滅的な鈍感さがもたらした直接的な結果であって、ライシやイランの背信から始まったわけではない。

トランプによる核合意からの離脱が戦略的な惨事を招き、より危険で分断された世界が生まれた。敵意を強めたイランは、今や核兵器を製造する能力を持ち、アメリカと敵対する2つの大国と次第に歩調を合わせている。

次期イラン大統領はこうした政策を継続すると考えられる。また、ロシアや中国と経済的・戦略的な連携を維持し、最終的に核兵器の開発を決断するかもしれない。

ライシは革命に基づく神権政治を堅固なものとし、より厳格な社会政策とより積極的な対外政策で再活性化しようとした。しかし、次期大統領は、国内で正統性と支持を破壊してきた政権の硬直さと統制を、かえって強める可能性が高い。

対外的には、代理勢力(彼らはイランに対する周囲の敵意を強め、地域戦争のリスクを高めている)を通じて、地域でさらに強硬な主張を続けるだろう。そして、ルールに基づく国際秩序に対抗して勢力圏を誇示する領土回復主義のロシアや現状を変更したい中国と、連携を強めるだろう。

イランのムッラー(宗教指導者)体制が硬化してクファール(不信心者)である西側の規範を敵視していることや、次世代の指導者候補がますます硬直化し保守化していることを考えれば、誰が次の大統領になるかはそれほど問題ではない。

革命防衛隊による支配は強まり、次の大統領はイランにとっても、ロシアと中国、退行する北朝鮮を除く地球上の全ての国にとっても、ライシより厄介な存在になる可能性が高い。

かつてCIA工作員だった私はある諜報活動がうまくいかない時期に私生活も破綻しつつあり、しかも上司の1人が私を破滅させようとしていた。そのとき親しい同僚でもある友人が、どん底の私を励まそうと声をかけてくれた。

「くよくよするな。今がどんなに悪くても、まだ最悪ではないのだから」

私は笑った。そして、状況はさらに悪くなった。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアとウクライナ、互いの首都攻撃 キーウで2人死

ワールド

EUはトランプ関税に屈服せず 対抗措置も検討=貿易

ビジネス

富士フ、印タタ・グループ傘下企業と提携 半導体材料

ビジネス

ノジマ、26年3月期は増収増益予想 買収のVAIO
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    分かり合えなかったあの兄を、一刻も早く持ち運べる…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    「欧州のリーダー」として再浮上? イギリスが存在感…
  • 7
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 8
    首都は3日で陥落できるはずが...「プーチンの大誤算…
  • 9
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...…
  • 10
    メーガン妃の「現代的子育て」が注目される理由...「…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中